表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/215

第百六十九話 無謀な案

これから女神の使いである戦乙女(いくさおとめ)ワルキューレが、大軍を(ひき)いてやって来る。


こちらも全員で協力(きょうりょく)しなければ、皆殺(みなごろ)しにされてしまう。


レヴィがまずそう話を始めると――。


群衆(ぐんしゅう)のざわつきがさらに(ひど)くなっていた。


もうお(しま)いだ。


早くここからも逃げなければと、弱々(よわよわ)しくも不安に()られた恐怖(きょうふ)の声が広場を()()くしていく。


彼女はその声に負けず、言葉を続けた。


大丈夫だ。


この場にいる者たちが力を合わせれば(かなら)ず勝てる。


だから、全員で立ち上がろうと。


力強く言ったステージにいるレヴィに、一人の男が声をあげた。


リムの父親――武道家(ぶどうか)の里ストロンゲスト·ロードの里長(さとおさ)エン·チャイグリッシュである。


竜騎士(りゅうきし)レヴィ殿(どの)。君が酔狂(すいきょう)でこのようなことを言っているのではないことはわかるが、相手は女神の軍勢(ぐんぜい)。生半可な戦いではすまん。何か(さく)があってそのようなことを言っているのであろうな?」


それからエンは淡々(たんたん)と言葉を(はっ)した。


自分は里長として、この里の住民(じゅうみん)(まも)義務(ぎむ)責任(せきにん)がある。


勝てぬ(いくさ)とわかっていながらそれに(いどう)むのは、大事な(たみ)を死なせてしまうことだ。


ここは無謀(むぼう)な戦いを(おこな)うことよりも、女神軍に降伏(こうふく)、また撤退(てったい)をするべきではないか?


――と、エンはレヴィの意見(いけん)尊重(そんちょう)する姿勢(しせい)(たも)ちながら言った。


「ストロンゲスト·ロード里長エン殿。勝ち目がないなどということない。(げん)にこちらはあの伝説の幻獣(げんじゅう)――バハムートを仕留(しと)めた。我々(われわれ)一丸(いちがん)となって協力すれば必ず勝てる」


レヴィはエンの質問に答えるとソニックから聞いた話を、(じゅん)を追って説明(せつめい)していった。


女神軍が進行する前に、聖騎士(せいきし)リンリに暗黒(あんこく)騎士ビクニが連れ()られたこと――。


おそらくリンリが女神に(あやつ)られていること――。


そして、ビクニとリンリ二人がこちらに戻れば、負けるはずがないと。


「リンリとビクニは今ライト王国にある選択(せんたく)(ほこら)にいる。彼女たちを取り戻すために(みな)(ちから)必要(ひつよう)なんだ」


(うった)えかけるように――。


いや、まるで自分の(いのち)()うように伝えたレヴィ。


だが彼女の(げん)の後に、群衆からポツポツと批判(ひはん)の声があがった。


暗黒騎士ビクニと聖騎士リンリは元々(もともと)女神の使いではないのか?


知っているぞ、そいつらはこの世界に女神の(ちから)召喚(しょうかん)されたんだ。


そんないつ敵に回るかわからない(やう)を助けにいって(かえ)()ちにあったらどうする?


ビクニとリンリ二人の名を出したのがまずかったのか。


最初(さいしょ)は少なかった批判の声が、次第(しだい)に大きくなり、まるでステージにいるレヴィを飲み込もうと()びせられていた。


その声はとどまることを知らず――。


広場全体――いや、この武道家の里ストロンゲスト·ロードを(おお)()くすほど大きくなっていく。


そして、さらに女神軍とは関係(かんけい)のない――。


亜人(あじん)たちへの暴言(ぼうげん)まで飛び()うようになった。


お前らがこっちの大陸に来たせいでこうなったんだろ!?


そうだ! 亜人のほとんどが愚者(ぐしゃ)の大地の生まれだ!


女神の手下(てした)と化け物どもはここから出て行け!


壇上(だんじょう)にいるレヴィは、その猛烈(もうれつ)(げき)の前に何も言い返すことはできず、ただ立ち尽くしている。


暴言の雨に打たれながらレヴィは思う。


やはり自分などの言葉ではダメだった。


先ほどエンが言った通りだ。


何の作戦もなく、ただ力を合わせて戦おうと呼びかけたくらいで、一体誰を動かせるというんだ。


(私は……私は……)


群衆へと向けていた顔を下げそうになるレヴィ。


だがそのとき、彼女がふと後ろを見ると――。


そこには顔を強張(こわば)らせたいつものリョウタがいた。


彼はもう辛抱(しんぼう)できないといわんばかりに、レヴィの前へと歩き出している。


しかし、リョウタがこの場を抑えられるとは思えない。


むしろ彼が出てくることによって、群衆は暴徒(ぼうと)と化す(おそ)れがある。


リョウタはビクニたちと同じく、女神の力によってこの世界に召喚された者なのだ。


そのことをもし口にしたりすれば、今の興奮状態(こうふんじょうたい)の群衆は、間違(まちが)いなく彼を(ころ)そうとするだろう。


そう考えたレヴィは、手を動かしてリョウタが来ることを止めた。


それは彼を心から心配しているからだった。


そんな彼女の表情を見たリョウタは、当然前に出ず、その足を止める。


問題ない。


いつものことじゃないか。


自分が非難(ひなん)されるのは。


(むかし)から何をやってもうまくいかないなんて当たり前だったはずだ。


それを、今さら――。


それに昔とはもう違う。


レヴィはそう考えながら微笑(ほほえ)んでいた。


彼女の脳裏(のうり)に浮かぶのは、これまでリョウタと旅してきたことだった。


二人で旅を始めた(ころ)にビクニ、ソニック、ググと出会い――。


とある街でリムにお(たず)ね者と思われて戦ったり――。


もう会えないと思っていた姉――ラヴィに(ふたた)び会えたりと。


これまでのことを振り返ると、自分が(のぞ)んで進んできた道はけして間違(まちが)っていなかった。


それは、今までも、これからもそうだ。


そう――。


リョウタとの出会いがあったからこそ――。


レヴィは(にぎ)っていた(こぶし)に力を()めると、再び群衆へと口を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ