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第百六十八話 信じてくれる人

――ルバートたちの呼び掛けにより、広場にはこの場所――武道家(ぶどうか)の里ストロンゲスト·ロードへと(のが)れてきた者たちが向かっていた。


その中には、ライト王国やここストロンゲスト·ロード、海の国マリン·クルーシブルなどの住民から多くの亜人(あじん)たちの姿(すがた)もあった。


普段(ふだん)は武道家たちの闘技場(とうぎじょう)に使われている広場へ、生まれも文化も種族(しゅぞく)(ちが)う者たちが集結(しゅうけつ)している。


広場に集められた各国(かっこく)の者たちは、一体何事(なにごと)かと不安そうにしていた。


無理もない。


突然(あらわ)れた聖騎士(せいきし)幻獣(げんじゅう)に国を追われ、ようやく安全なところへ辿(たど)り着いたのだ。


それなのにこうやって集められ、また何か悲惨(ひさん)なことが起こったのかと心配するのも当然だろう。


その広場には簡易的(かんいてき)なステージがあった。


いつもなら、ここから闘技場で組手(くみて)(おこな)う武道家たちへ、代表の者や里長(さとちょう)(げき)を飛ばすためにあるものだろう。


今そのステージには、広場にいる者を集めるように言ったレヴィと、その(そば)で落ち着かない様子のリョウタが、闘技場を()()くしている者たちを(なが)めていた。


「よし、全員そろったな」


「おいレヴィ、やっぱ無理だって……」


リョウタがレヴィへそう言った。


レヴィの考えはこうだ。


各国の指導者(しどうしゃ)(たお)れている状態(じょうたい)では、ここにいる者すべてを統率(とうそつ)できる者などいない。


先ほどリョウタが言ったように、各国にその名が(とどろ)いている者――ルバートに指揮(しき)(まか)せるという(あん)もあったが、彼はそれは(むずか)しいという。


それも当然だろう。


今の彼はすでに貴族(きぞく)ではない。


国を出て、すで一介(いっかい)の騎士であるルバートの現在(げんざい)の立場は、ライト王国の食客(しょっきゃく)


彼の生まれ故郷(こきょう)である海の国マリン·クルーシブルや、彼を(した)う亜人たちならいざ知らず――。


王の血族(けつぞく)でもなく、ましてや爵位(しゃくい)のない者の命令(めいれい)など聞けぬというプライド高い人間は意外(いがい)と多いのだ。


いや、それ以上に先ほどの襲撃で戦意の落ちている彼らに、ただ敵が来たから戦えというのは無理という話だった。


リョウタはそのことを何度もレヴィへ言っていたのだが――。


「いや、リョウタ。私は信じているぞ。きっと誰もが(まも)りたいものためらならば戦うと」


レヴィは、たとえ今は戦意を(うしな)っているとしても、ここにいる者すべてが同じ思いを(いだ)いているはずだと考えていた。


後はそれを気付かせるきっかけだ。


自分では役不足(やくぶそく)かもしれない。


だが、何もせずにただいたずらに時間が過ぎていけば、愚者(ぐしゃ)の大地から敵軍(てきぐん)がやって来てしまう。


そうなってからでは(おそ)いのだと、彼女はリョウタへ答えるのだった。


「この場にいる者の気持ちは皆同じはずだ。あとはそう……誰かに背中(せなか)を押してもらえさえすれば……」


「わかった。俺もお前が信じていることを信じるよ。……そうだよな。みんな……同じ気持ちのはずだよな……」


レヴィの決意(けつい)を知ったリョウタは、笑みを()かべると、もうそれ以上何も言わなかった。


そしてレヴィは、全員そろったとことを確認(かくにん)すると、ステージの前へと出る。


誰だあれは?


(りゅう)甲冑(かっちゅう)を身に付けた女騎士?


集まった各国の者たちが彼女の姿を見ると、そんな声がざわざわと聞こえ始めていた。


いや、知っているぞ。


あれは竜騎士レヴィ·コルダストだ。


その中の何人かは彼女に気が付き始めていた。


そのざわつき始めた者たちの言葉を聞くに――。


彼女の評判(ひょうばん)があまり良くないことがわかる。


間の抜けた女騎士。


飛翔(ひしょう)しても着地(ちゃくち)すらろくにできない竜騎士。


ライト王国へ行くまでお(たず)ね者だったと聞いた。


――など、レヴィに対して批判的(ひはんてき)な声が出始めている。


その群衆(ぐんしゅう)の声は、彼女にも聞こえていた。


だが、それでもレヴィは目をそらさない。


たとえ好奇(こうき)の目に(さら)されようと、群衆へと顔を向ける。


大勢の群衆を前にレヴィは思う。


以前の自分だったら、このような侮辱的(ぶじょくてき)視線(しせん)()えられず逃げ出していた。


騎士の出だという小さな矜持(きょうじ)を理由に、群衆たちと向き合えなかっただろう。


だが、今は違う。


自分を信じてくれる者がいる。


何をしても傍にいてくれる人がいる。


レヴィはそう思うと、(こころ)が熱くなっていくのを感じた。


いつだって無茶(むちゃ)(ゆる)してくれる人がいる――。


そう考えると、ちっぽけなプライドなど()てることができる。


「私は……自分の信じることをするんだ……」


レヴィはそう(つぶや)くと、目の前にいる群衆たちへ口を開いた。

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