第百六十七話 指導者の不在
それからソニックは、愚者の大地からワルキューレが率いる大軍が来ることを皆に伝えた。
それを聞いた誰もが震えおののいていた。
こちらの大陸にあった国々は、すでに聖騎士リンリとバハムートによって半壊状態。
その後――聖騎士リンリはその行方を消し、ラヴィたちがリョウタの立てた作戦でなんとかバハムートを撃退した。
幸いだったことといえば、聖騎士リンリの強襲で命を失った者がいないことくらいだ。
だが、今ここ――武道家の里ストロンゲスト·ロードに集まっている者たちには、大軍を迎え撃つ戦意などない。
辛くも生き残った各国の者たちは、次の襲撃をただ恐れているだけだった。
「その話が本当なら、こちらも陣形を組んでまとまらないとまずいな」
ソニックの言葉を聞いたルバートがそういうと、イルソーレとラルーナが快活な声をあげる。
「さすがルバートの兄貴!」
「うんうん! そうですねそうですね!」
二人とも何度も頷きながら、両手をあげてやんややんやとはしゃいでいる。
それを見たソニックは、このダークエルフの男と人狼の娘は、相も変わらずルバートの太鼓持ちだと呆れていた。
「だが、どうするんだ? こっちは国を代表するような奴らは、みんな寝ちまってんだぞ?」
リョウタがルバートへ訊ねた。
それは別に、はしゃいでいるイルソーレとラルーナに水を差したかったわけではなく。
実際に彼の言った通り、ライト王を始めとする各国の指導者たちは、先ほどの聖騎士リンリとバハムートの襲撃によって意識を失っていた。
特にライト王の容体は酷く、高熱が出て未だにうなされている。
ライト王は、ビクニとリンリのことを自分の娘のように可愛がっていた。
それもあり、彼女が国を襲ってきたことがよほどショックだったのだろう。
ベットで横になりながらリンリの名を呼び続けている。
「なあルバート。お前は世界最強とか呼ばれてんだろ? なら、ここにいる連中を仕切るくらいできるんじゃないか?」
リョウタは誰も何も言わなかったので、自分の考えを話した。
それは、愚者の大地がある大陸を抜けば、世界最強と言われているほどの剣の使い手であるルバートなら、ここに残った連中を奮い立たせることができるのではないかというものだった。
たしかに彼――ルバートの名は世界中の国でも有名である。
イルソーレとラルーナもリョウタの案に賛成と、二人して手をあげていたが――。
「いや、無理だろう……。私は一介の騎士であって指導者ではない」
ルバートはその首を横に振った。
自分は剣の腕が認められているだけで、王として政で何か成したわけではない。
それに、自分が軍の指揮を執るということに、向いているとも思えない。
――と、ルバートは申し訳なさそうに答えた。
そういった彼を見たイルソーレはがっくりと肩を落とし、ラルーナはその獣耳を垂れさせていた。
二人は、けしてルバートを見損なったわけではない。
自分たちが、彼の気持ちも考えずにはしゃいだことに、反省しているのだ。
「でも、正直ルバート以外にそんなことできそうな奴はいないぞ……」
リョウタが力なくそういうと――。
レヴィが突然声を張り上げる。
「え～い! こんなことしている間にも愚者の大地から大軍が向かって来ているんだ! いいからみんなッ! 広場にこの里いる者を全員集めてくれ!」
彼女の言葉を聞いたその場にいた者たちは、一斉に散らばっていく。
たしかにそうだ。
ここでああでもないこうでもないと話していたところで、直に敵軍がやって来るのだ。
とりあえず皆にこのことを知らせねばと、誰もが思ったのだ。
「おいレヴィ。お前、何か考えはあるのか?」
「ない」
「ないって……。まあ、お前らしいよ……」
ルバート、イルソーレ、ラルーナ、トロイアたちが人を集めに行き、リョウタがレヴィに呆れている中――。
ソニック、ラヴィ、リムは、誰にも気づかれないようにこっそりと里を出るのであった。
