表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
167/215

第百六十三話 悪意の解放

ビクニが……ビクニが連れていかれちゃった……。


女神を復活(ふっかつ)させるだとか、(たましい)がどうとか言っていたけど。


まさかビクニを生贄(いけにえ)にでもするつもりなんじゃ……?


「さてと、ずいぶんと手間取(てまど)ったがこれで終わりだな、吸血鬼(きゅうけつき)


ワルキューレは不気味(ぶきみ)な笑みを()かべると、その手をソニックにかざした。


こっちのことなんかまるっきり相手にしていないのは、さっき言っていたようにぼくのことを、小動物(しょうどうぶつ)と同じだと思っているからだろう。


ソニック……動いて!


じゃないと殺されちゃうよ!


ぼくが()(わめ)いても、ソニックはただうめくばかりでろくに反応(はんのう)してくれない。


ワルキューレの剣――“女神の慈悲(じひ)”に体を(つらぬ)かれたのがよほど()いているんだ。


安心(あんしん)しろ。地獄(じこく)にはお前の眷属(けんぞく)大勢(おおぜい)いる。けして(さび)しくはないはずだ」


ぼくは……またなにもできないの……?


ビクニは連れていかれちゃって、このままソニックが殺されちゃうのをただ喚きながら見ていることしかできないの?


そんなの……そんなのイヤだ……。


ぼくは自分の無力(むりょく)さに苛立(いらだ)ちを感じていると、次第(しだい)に体内にため()んでいた悪意(あくい)がふくれ上がっていった。


そうだよ……全部……ぼくが(よわ)いのがいけなかったんだ。


ぼくが……ぼくが強ければ……。


ビクニやソニックを(まも)れるくらい強ければ……。


ヴァイブレも死なずに誰も(きず)つかずにすんだんだ。


「うん? な、なんだ、この強力(きょうりょく)魔力(まりょく)はッ!?」


ワルキューレがぼくのほうを見て驚愕(きょうがく)表情(ひょうじょう)になっていた。


(あわ)てながらぼくのほうへと()り返って、その(おどろ)いた顔のまま身構(みがま)えている。


ぼくは自分でもよくわからないけど。


とてつもない(ちから)が体内からあふれ出してくることだけは理解(りかい)していた。


ただ、これ以上好きな人に傷ついてほしくない。


それだけが頭の中をグルグルと回っている。


「ググ……やめろ……。悪意に飲み込まれちまったら……。あのときみたいに……お前がお前じゃなくなっちまうぞ……」


ソニックの弱々(よわよわ)しいけど、(こころ)のこもった声が聞こえる。


ぼくのことをすごく心配(しんぱい)してくれているのがわかる。


大丈夫(だいじょうぶ)……大丈夫だよ、ソニック。


ぼくが……ぼくがビクニときみを守るから……。


「まさか、あんな小さい幻獣(げんじゅう)がこれほどの魔力を(かく)していたとは!? この強さ、バハムートに匹敵(ひってき)するぞ!」


ワルキューレが一人で(さわ)いでいる。


小動物と思っていたぼくが、(じつ)はものすごく強かったことが予想外(よそうがい)だったみたいだ。


「やめろッ! やめろググッ!」


ソニックが大声でぼくの名を(さけ)んでいる。


体に(あな)が開いているのに無理(むり)しちゃって。


でも、ぼくはそんなソニックが大好きだよ。


もちろんビクニも……。


今までの二人との(たび)で出会えたみんなのことも……とっても好きだ。


「ま、まずい!? 魔力を消費(しょうひ)している今の私では!?」


ワルキューレのその言葉を聞いたのを最後(さいご)に。


ぼくは完全に意識(いしき)(うしな)った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ