表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/215

第百六十二話 魂の動き

ワルキューレとリンリが真下(ました)にいるぼくらのほうを見ると、ゆっくりと下りてくる。


大変だ! 早く、早く逃げなきゃッ!


でもどうすればいいんだよ!?


ビクニはいくら()きかけても()きてくれないし。


(たよ)りのソニックはワルキューレの剣で(むね)(つらぬ)かれて瀕死(ひんし)状態(じょうたい)


おまけにビクニの血の効果(こうか)が切れたのか、(おさな)い少年の姿(すがた)(もど)っちゃってる。


こんな状況(じょうきょう)一体(いったい)どうすれば逃げられるっていうんだ!


()同士(どうし)リンリよ。暗黒騎士(あんこくきし)を連れて愚者(ぐしゃ)大地(だいち)からこちらに向かっている(ぐん)合流(ごうりゅう)し、向こうの大陸(たいりく)に着いたら――」


「わかっている。選択(せんたく)(ほこら)へと行き、すぐにでも女神さま復活(ふっかつ)儀式(ぎしき)を始める」


ワルキューレとリンリがぼくらの目の前まで下りてくると、なにやら重要(じゅうよう)なことを話をしていたけど。


そんなことを気にしている余裕(よゆう)は今のぼくにはなかった。


ただ、どうやって戦乙女(いくさおとめ)聖騎士(せいきし)から逃げ出せるかだけを考えていた。


「うん? こいつは……」


ワルキューレは気を(うしな)っているビクニを見て、その(まゆ)をひそめている。


リンリのほうはそんな彼女のことなど気にせず、ビクニに手をかざした。


そして、自分たちが(ちゅう)()くのと同じように、彼女の体を魔力(まりょく)で海から引き上げる。


ビクニの体の上に乗っていたぼくも、自動的(じどうてき)に宙へと持ち上げられてしまった。


ワルキューレは、宙に浮くビクニの顔をさすったり、口を開いたりしてなにかを確認(かくにん)しようとしていた。


「ふむ。どうやら暗黒騎士は完全に吸血鬼(きゅうけつき)となったようだな」


問題(もんだい)ない。暗黒騎士が人間だろうが亜人(あじん)だろうが、女神さまの復活に必要(ひつよう)なのはその(たましい)だけ」


「まあ、そうか。よし、私は吸血鬼の始末(しまつ)をしておく。聖騎士(せいきし)リンリは暗黒騎士を連れて先に軍と合流してくれ」


了解(りょうかい)した」


ぼくはそんなことさせるかと、リンリに向かって飛びかかった。


だけど、簡単(かんたん)に体を(つか)まれてしまい、そのまま彼女の手で()るされてしまう。


「これは……幻獣(げんじゅう)なのか?」


「ああ、そうだ。だが、気にするようなものではない。我々(われわれ)から見ればそこらの小動物(しょうどうぶつ)と変わらん」


リンリはワルキューレにそう言われると、ぼくのことをじっと見ながら、ただその感情のない顔を向けていた。


彼女の手で吊るされたぼくは必死(ひっし)でもがいているけど、それでどうにかできるものではなかった。


「どうやら暗黒騎士は亜人や幻獣やらにずいぶんと()かれるようでな。こいつも勝手(かって)についてきた口だろう。道端(みちばた)()らした犬猫(いぬねこ)(なつ)いてしまったのと同じだ」


「犬猫……。犬……猫……。猫屋敷(やしき)……ビ……クニ……。雨野(あめの)……比丘尼(びくに)……」


リンリはぼくからビクニに目を(うつ)すと、なにやらボソボソと(つぶや)き始めた。


そのときの彼女は、変わらず無表情(むひょうじょう)のまま生気(せいき)のない顔をしていたけど。


なんだから大事なことを思い出そうとしていた――そんな感じにぼくには見えた。


もしかしてリンリは魔法(まほう)かなにかで、その精神(せいしん)(あやつ)られているのかもしれない。


そう思ったぼくは、説得(せっとく)のするつもりで彼女に鳴き(わめ)いてみたけど。


リンリは変わらず無表情のまま、またぼくを見ているだけだった。


「じゃあ、先に行く」


「ああ、こちらは(まか)せろ」


リンリはボソッとワルキューレに言うと、ぼくの体を海へと(ほう)り投げ、宙に浮いたビクニの体と一緒に飛んで行ってしまう。


海へと落とされたぼくは、リンリに連れて行かれるビクニのうしろ姿(すがた)を、ただ見上(みあ)げることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ