第百五十九話 応戦
聖騎士の少女の全身からは絶えず魔力が放出されている。
その魔力で宙を浮いていられるのかな。
なんてすごい魔法だ。
これはもう精霊とかぼくら幻獣クラスの魔力だよ。
いや、女神の使いなら天使といったほうがいいのかな?
なんだか彼女の真っ白な魔力も天使の羽根みたいに見える。
なんて感心している場合じゃないッ!
せっかくここまで逃げて来れたのにこんな恐ろしく強いやつを相手していたら、ソニックの魔力が尽きて海に落とされちゃうよッ!?
だけどぼくが慌てて鳴こうが、聖騎士の少女の攻撃は続いていく。
その剣撃はまさに光の速さ。
ソニックが自分に速度を上げる魔法をかけていなかったら、すぐにやられちゃっているよ。
それにビクニを抱えた状態じゃ、まともに反撃もできない。
このままじゃ、海の上で殺されちゃうッ!
「回避パターン解析完了。これより魔法での攻撃を開始する」
聖騎士の少女はそう呟くように言うと、剣を持っていないほうの腕を掲げた。
そこから現れた無数の白い光の玉が次々と宙へと浮き、ソニックのことを取り囲むように飛んでくる。
ビクニに当たらないように気をつかいながら、なんとかギリギリに避けるソニックだったけど。
その魔法の攻撃と一緒に、聖騎士の少女の嵐のような剣撃も始まった。
「ぐわッ!? や、やべえッ!?」
高速で放たれる少女の剣に、ソニックはバランスを崩してしまった。
その隙を逃すはずもなく、少女の攻撃が無慈悲にも飛んでくる。
「しまったッ!? ビクニッ!?」
ソニックは手を斬りつけられ、ついビクニを離してしまった。
彼に抱えられていたビクニはそのまま海へと落ちていく。
ああッ!
こんなのどうしようもないじゃないかッ!
ビクニを庇いながらあんな速い剣も魔法も避け続けられるわけないよッ!
「問題ない。暗黒騎士は戦闘後に回収。今は目標――吸血鬼族の逃亡者の排除を優先する」
海に落ちたビクニを一瞥した聖騎士の少女は、その無愛想な顔のまま再びソニックと向き合った。
ぼくはもう諦めかけていた。
ヴァイブレが命を懸けてくれたおかげでここまで来れたけど。
こんな強いやつを相手に逃げれるわけない。
そう思っていた。
だけど……ソニックは――。
「てめえ……どうやら殺されたいらしいな……。いいぜ、相手になってやるよ」
不気味な笑みを浮かべながら、その全身に自身の魔力をまとい始めた。
まずいよ……。
ソニックったらあとのことを考えずに戦うつもりだ。
ここで魔力を使い果たしたら、ビクニを連れて向こう大陸まで行けなくなっちゃうのにッ!
「ググ。お前はビクニをなんとかしろ」
ぼくは必死になってそのことを伝えようと鳴き喚いたけど。
ソニックにまるっきり無視され、海を漂っているビクニの体の上へと投げ飛ばされた。
ビクニに目立ったケガはなく、かなりの高さから海の落ちたのに、まだ眠ったままで、ただ波に揺られている。
ぼくらの上では、真っ黒な魔力を放出したソニックが、聖騎士の少女の放つ白い魔力を打ち消し始めていた。
「聖騎士だろうとよぉ。どれだけ魔力が強かろうとよぉ。人間には超えられない壁があることを教えてやるよ!」
顔を上げて見たソニックの姿は、ぼくが知っている彼とは別人のようだった。
