第十六話 裁判のとき
その後――。
荒らされた宝物庫と私の部屋、そしてソニックがいた兵舎が調べられた。
でも、これといって犯人が残した証拠らしい証拠は見つからなかったみたい。
それから夜になり、重要参考人――いや被疑者として、ソニックが玉座の間に連れて来られる。
もちろん私も、そしてラビィ姉もその場に参加していた。
玉座に座っているライト王の前に立たされたソニックは、今朝に私と会ったときと変わらぬ不機嫌そうな表情をしていた。
そんな変わらぬ彼を見た私は、内心で安心していた。
それは、尋問や拷問などの酷い目にあってはいなさそうだったからだ。
そりゃそうだよね、この国の人たちはみんな優しいもの。
兵士たちに囲まれ、拘束されているソニック。
そんな彼を見ているライト王は、とても困った顔をしていた。
「吸血鬼の少年よ。もうわかっておるだろうからあえて説明はせぬが――」
玉座に座ったまま、ライト王はソニックに話を続けた。
昨日、この城に入った者はお主だけだと――。
それで今朝に宝物庫が荒らされ、ビクニの腕輪がなくなったことで何か知っていることはないか? と――。
そう訊かれたソニックはライト王を睨みつける。
「知らない! 俺は何もやってない!」
それからも彼は、何を訊ねられても知らないの一点張りだった。
弱った弱ったとでも言いたそうなライト王。
周りにいる兵士たちも、この少年が犯人ではないよな、といった顔をしていた。
それを見て、前に出たラビィ姉がペコっと頭を下げる。
「ライト王様。まだ証拠らしいものは見つかっていないっすけど。こいつは、あの何をしても外れなかったビクニの魔道具を取ることができた奴っすよ。それだけでも十分に怪しいと思うっす」
「しかし、ただ腕輪を外せたということだけで、宝物庫のことまでこの少年のしたことにするのは……」
ライト王は、ソニックを罰したくなさそうだった。
このままだと、ラビィ姉から聞いていた通りの結果になりそう。
やっぱり優しいお爺ちゃん――いや王様だ。
でも、ラビィ姉はやっぱりそう言うだろうとわかっていたようで、強い口調でライト王に反論を始める。
「それだけで十分っすよ。たとえ、こいつが犯人じゃなくても吸血鬼族は危険な存在っす。見ての通りまだ子供だからいいっすけど、もしこいつが成長した暴れでもしたら、ライト王国でこいつを止めれる者はいないっすよ」
ラビィ姉は、私にも話していた吸血鬼族の恐ろしさをライト王に訴えていた。
吸血鬼族は、残虐行為が好きで人間の血を食事とし、とてつもない魔力を秘めている種族だと言葉を続けた。
「この国を守るためにも、こいつは今すぐここで殺すべきっす」
いつになく熱く語っているラビィ姉。
この人は、本当にこの国が好きなんだと思うけど、私はソニックに死んでほしくない。
でも、ラビィ姉のあまりの迫力に、私が声も出せずにいると――。
「うん? あれは……?」
そんな彼女の体から真っ黒なオーラのようなものが出ているのが、私には見えた。
気のせいかと思って、目を擦ってもうラビィ姉を一度見たけど、たしかに黒いオーラが出ている。
「な、なんだろう、あれ?」
私にだけしか見えていないのか?
でも、その黒いオーラはドンドン大きくなっていき、次第に何かの形へと変わった。
「ビィィィッ!」
当然甲高い鳴き声が玉座の間に響き渡った。
ライト王も兵士たちも、そしてラビィ姉さえもそのオーラが形になったものを見て驚愕している。
「バクが……何故こんなところに突然現れたんだ!?」
声をそろえて叫ぶ兵士たち。
ラビィ姉の体から出たオーラは、この異世界のバクという幻獣の姿となった。
熊の胴体、虎の手足、牛の尻尾、象の鼻、犀の目、猪の牙を持った巨大な生き物が、私たちの前で叫び鳴いている。
その姿は、なんかとても苦しそうだった。
バクは、激しく呻きながら玉座の間で暴れ始めた。
石造りの壁と太く大きな柱を次々に破壊していく。
「いかん、皆の者! ビクニと少年を守れ!」
「何を言っているっすかライト王様! 片腕のあなたじゃ自分の身を守れないっすよ!」
兵士たちは、ライト王の指示通りに、私と少年を抱えてバクから離れた。
そして、ラビィ姉はそんなライト王を庇いに走り出している。
結局、話しているときから何もできずにいる私。
これじゃバハムートが襲ってきたときと同じだよ……。
そんな中で、暴れ狂うバグが突然何かを吐き出した。
「あっ! 私の腕輪っ!」
それは今朝なくなった魔道具だった。
その魔道具から、あの奇跡の泉で聞いた女神様の声が聞こえてきた。
「ビクニ……おお、ビクニ……今こそあなたの持つ力を使うのです……」
こんな無力な私に向かって、女神様は静かに、そして穏やかに無茶な話を続けた。




