第百五十五話 決意
ワルキューレはこれから愚者の大地に住む者すべてを連れて、ぼくらがいた大陸へと攻めに行くと宣言した。
小屋の中から外をこっそり見てみると、そこらへんにある鏡にワルキューレの姿が映っているのが見える。
そうか、ワルキューレはこの鏡を使ってぼくらや住民たちの様子を監視していたんだ。
謎が解けたのはいいんだけど。
こいつは大変だ!
ライト王国が攻め落とされちゃって、さらにこれから大軍を率いて向こうの大陸に行くんだって!
どうしよ! どうしようッ!?
ぼくが慌てて鳴いていると――。
「ビクニ……勝手なことをしちまうが、わりぃ……。あとでちゃんと謝る……」
ソニックが眠っているビクニにそう呟いていた。
そしてソニックは、彼女の首へ自分の口をそっとくっつける。
わ、わわぁッ!? ソニックってば思ったよりも大胆だなッ!
その光景はなんだか恋人同士みたいで、見ているぼくのほうが照れてしまう。
そして、優しく歯をたてると眠っているビクニがビクッと反応していて、なんだか色っぽい表情になっていた。
反対にソニックの顔は悲しそうだ。
「これでお前は……。俺と同じ完全な吸血鬼になっちまった……」
そして、ビクニのへの吸血を終えたソニックが、口についた彼女の血を手で拭いながらそう言った。
二人のことを茶化すような気持ちで見ていたぼくだったけど。
ソニックのその言葉を聞いて、自分のことが恥ずかしくなってしまった。
ぼくとしてはビクニが吸血鬼なることは全然問題ないのだけど。
いや、むしろ目を覚ますだろうから嬉しいのだけど。
ソニックは、取り返しのつかないことにしたみたいに、浮かない顔をしていた。
そんな顔をしないでよ……。
これまでも、ソニックがビクニの血を吸ったことで助かったことがいっぱいあったじゃん。
ビクニだって目が覚めたら、絶対にありがとうって言うよぉ……。
ソニックの姿が幼い少年から凛々しい青年の姿へと変化していく。
ビクニの血を吸った影響――ぼくはこのことを王子さまモードと名付けたよ。
だってホントに王子さまみたいなんだもん。
あっ、でもホントに王子さまだったか。
「ググッ! とりあえずあっちの大陸に戻るぞ!」
ぼくがそんなことを考えていると、ソニックが叫ぶように声をかけてきた。
驚いているぼくにソニックはそのまま力強い声で言葉を続けた。
このままビクニを連れて、ライト王国の人たちや他の国で出会った人たちと合流する。
それからビクニのことをみんなに預けるのだと。
そして、ソニックはぼくの体を掴むと自分の頭に乗せ、急いで小屋を出ていく。
「おいヴァイブレ! 近くにいるか!? いるなら返事をしろ!」
辺りに向かって大声を出しながらヴァイブレを探すソニック。
だけど、ヴァイブレはどこにもいなかった。
ビクニが人間だったことを知って、吸血鬼族の禁忌を破ったソニックに愛想を尽かしちゃったのかな。
ソニックに聞いた話だと、ヴァイブレは人間に家族を殺された過去がある。
だから、ビクニを人間だったと知ってそんな態度になっちゃうのはわかるけど。
でも、それでビクニを嫌いになるのはやっぱりおかしいよ。
「まずい……奴らが来やがった!?」
ソニックが叫んだほうには、その辺りを塗り潰すように進む灰色の甲冑姿の兵隊がいた。
