第百四十九話 利用価値
一騎打ちすると見せかけて逃げ出す作戦。
どうやらワルキューレには、こちらの考えはお見通しだったみたい。
ソニックが機転を利かせたのに、やる前から釘を刺されちゃったよ。
「うん? どうしたんだ吸血鬼? あまり顔色が良くないみたいだが?」
ワルキューレは、まるでソニックのことを小バカにするかのように心配してきた。
白々しい……。
ホント性格悪いよね、この人。
これでホントに女神の使いなの?
「あれだけ拷問されりゃそりゃ顔色も悪くなるだろうよ。こっちは廃人になりかけたんだぞ」
ソニックがフンッと鼻を鳴らしながら返事をすると、ワルキューレは何か小さなビンをを彼に向かって投げた。
放り投げられた小さなビンを掴み、ソニックがそれが何かを確認すると――。
「こいつは……ッ!?」
「そいつも褒美だ。我が同士――聖騎士リンリの話では、重傷を負った吸血鬼族は、魔力のほとんど失うと聞いたからな。もっとも貴様には最初から魔力はなかったか?」
ワルキューレがソニックに向かって投げた小さなビンには、真っ赤な血が入っていた。
そのついでと言わんばかりに、その聖騎士がどれだけの数の吸血鬼族を殺したのかを話した。
なんだこの人……ホントにバカにしてるッ!
「安心して飲むがいい。毒など当然は入っていないし、ちゃんと貴様の契り合った相手。そこで寝ている暗黒騎士のものだ」
「んなこたぁ匂いでわかんだよ。それよりもてめえらがビクニに何をしたのか聞かせろ」
掴んだ小さなビンを握りながら、ソニックはワルキューレを睨みつけた。
ぼくもソニックに続いて、彼女のことをギロリと見つめる。
「聞いてどうする? 暗黒騎士は無事でいて、それ以上何を望むのだ? そんな話を聞いたところで貴様の腕が怒りで鈍るだけだぞ」
「うるせぇ。てめえをぶん殴る理由を増やしてぇだけだ」
ワルキューレは怒りに震えるソニックを見て、すごく嬉しそうにしている。
そして、そこまで言うならと、ビクニにしたことを話し始めた。
今のビクニは、体内にある魔力のほとんどを奪われた状態である。
そのため、彼女は意識を失っているのだと。
「そいつはハーフヴァンパイアになっていて助かったな。もしただの人間のままだったら、魔力を絞り尽くされたときに死んでいたはずだ」
さらに、これまでの旅で暗黒騎士の証である魔道具に溜められていた、人間や亜人の悪意も回収済みだと言う。
「もうそいつは用無しだ。元々女神様はその小娘に悪意を集めさせるために、わざわざ暗黒騎士にしてやったのだからな。まあ、そいつに暗黒騎士の才能があったことは認めるが、如何せん女神様の崇高な教えを受け入れられぬ落ちこぼれなど、我々の同士にはいらぬ」
なんなんだよ……。
女神はビクニにそんなことをさせるために暗黒騎士にしたの……?
それでビクニが女神の仲間に入らないからって捨てちゃうの……?
利用するだけ利用しておいて……なんて酷いやつなんだ!
「そうかよ。……ならよ、いらねえんなら、こいつは俺がもらっていいな」
「ふん。余程たらし込まれたようだな。貴様がこの一騎打ちで私に勝てたら好きにするがいい。もしかしたら完全な吸血鬼にでもしてやれば、その落ちこぼれも目を覚ますかもしれんしな」
ワルキューレはそういうと、おぞましいおばけのような笑みのまま剣を構えた。
そして、ソニックは掴んでいたビンの蓋を開けて、中に入った血を一気に飲み干すのだった。
