表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/215

第百四十八話 戦乙女からの褒美

ソニックは目の前の光景(こうけい)を見ながら、その表情(ひょうじょう)強張(こわば)らせる。


「誰もいないのが(みょう)だとは思っていたが……。こういうことかよ……」


なんで……なんでよッ!?


どうしてここにワルキューレがいるのッ!?


大聖堂(だいせいどう)の前にいたワルキューレは、衛兵(えいへい)たちに陣形(じんけい)をとらせていた。


それは、まるでぼくたちがここへ来ることが、(はじ)めからわかっていたみたいだった。


廊下(ろうか)やビクニのいた部屋の前に護衛(ごえい)をつけなかった理由(りゆう)は、ここでぼくらを(つか)まえるためだったの?


それにしても、一体どうやってぼくたちの動きを把握(はあく)していたんだ?


「何故? という顔をしているな。ふふふ。まあ、それもしょうがないか」


ワルキューレは、驚愕(きょうがく)しているぼくとソニックを見て、自分の(かた)()らしている。


この人、顔はすごくキレイなのに。


笑うとなんだかおぞましいおばけみたいになる。


そんなおぞましいワルキューレが肩を揺らしたせいか、彼女が(かぶ)っていた(かぶと)装飾(そうしょく)羽根(はね)薄気味悪(うすきみわる)く動いていた。


まるでヘビみたいだ。


「おい、吸血鬼(きゅうけつき)貴様(きさま)我々(われわれ)の“治療(ちりょう)”を受けてもなお、 (ちぎ)り合った相手を(わす)れることはなかった。そんな者は今までいなかった。それに(かん)しては我々の負けだ。素直(すなお)敗北(はいぼく)(みと)めざる()ない」


ワルキューレはそう言いながら、衛兵(えいへい)たちへ向かって右手をあげた。


すると、大勢(おおぜい)いた衛兵たちが一斉(いっせい)拍手(はくしゅ)を始める。


まるでぼくらがオペラ劇場(げきじょう)看板役者(かんばんやくしゃ)かのように、拍手喝采(かっさい)(あらし)


でも、なんだか称賛(しょうさん)されているというよりも、バカにされているみたいな気分にさせられる。


「だがそれは、(ほか)ならぬ女神さまへの冒涜(ぼうとく)であることには変わりない。よって今から貴様を処刑(しょけい)するとしよう」


なんだよ。


結局(けっきょく)ぼくらを殺すつもりなんじゃないか。


それなのにあんな大袈裟(おおげさ)なマネして。


あれが礼儀(れいぎ)だとでもいうのなら、ホントにただの(かたち)だけじゃん。


形式(けいしき)のだけの礼なんて、そんなの全然(うれ)しくもなんともないよ。


ワルキューレの言葉を聞いたぼくがプンプン(おこ)って()いている下で、ソニックは身構(みがま)える。


「だが、せっかくだ。治療を()え抜いた貴様に褒美(ほうび)をやろう。さて、一体何が良いやら……」


両腕(りょううで)を組んで考え始めるワルキューレ。


その姿(すがた)一見(いっけん)すると(すき)だらけだけど。


いつでもぼくらを攻撃(こうげき)できる魔力(まりょく)体内(たいない)から(あふ)れていた。


それに気が付いていたソニックは、すぐにでも飛び立てる状態(じょうたい)なのにそれをせず、ただワルキューレの話を聞いていた。


大丈夫、大丈夫だよ。


こんな大ピンチだけど、ソニックは冷静(れいせい)だ。


きっとどうにかなる。


「ふむ。やはり貴様が(ほっ)するものは私の(くび)だろうな。しかし私の(いのち)は女神様のもの。他の誰にも(ゆず)ることなどできぬ。そこでどうだ? ここは一つ褒美として、ここに待機(たいき)させている衛兵たちに手は出させん。この私――戦乙女(いくさおとめ)ワルキューレと貴様で一騎打(いっきう)ちというのは?」


なんかとんでもないことになってきたよ。


だけど、衛兵たちが手を出さないでくれたら、それはそれでラッキーかな?


ねえ、どうしようソニック?


ぼくが鳴いて(たず)ねると、ソニックから小声で(つぶや)くように返事が来た。


「大丈夫だ、ググ。ここはあいつの提案(ていあん)に乗る()りをする」


やっぱりソニックは冷静だった。


彼の作戦は、ワルキューレと一騎打ちすると見せかけて、もう一度速度(そくど)を上げる魔法(まほう)ファストドライブを(とな)える。


そして、そのままコウモリの(つばさ)を広げ、ぼくとビクニを(かか)えて空へと飛んで逃げるというものだ。


さすがだねソニック。


いっよ、吸血鬼族の王子さまッ!


この作戦なら絶対(ぜったい)に逃げれるよ。


「わかったぜ。てめえの(もう)し入れを受けてやる。だけどな、一騎打ちの最中(さいちゅう)にビクニやググに手を出すなよ」


「安心しろ吸血鬼。こちらから申し込んだ一騎打ちだ。それを(けが)行為(こうい)は、女神様への冒涜と同じである」


信用(しんよう)していいんだな?」


無論(むろん)だ。我が女神様にかけよう」


よし、うまいよソニック。


こっちが(うたが)っていると思わせて、実は(だま)そうとしているなんて誰も思わないもんね。


そして、ソニックが抱えていたビクニを(やさ)しく地面(じめん)を置き、ぼくも彼の頭から彼女の体へと飛び(うつ)る。


一方(いっぽう)ワルキューレのほうは(ふたた)び手をあげて、衛兵たちを下がらせていた。


「そうだ。言い(わす)れていたな。もし一騎打ちの最中に貴様が逃げ出したら……」


ワルキューレは衛兵たちからぼくらのほうへと振り返って、言葉を続ける。


即座(そくざ)に衛兵たちが動き出すぞ」


そして、またおぞましいおばけみたいな顔になる笑みを()かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ