第百四十七話 いざ脱出
部屋の中では、簡素なベットの上で眠っているビクニがいた。
この部屋の壁もやっぱり灰色だ。
それとこれもやはりというか、街の中やぼくらがいた地下、廊下、大広間と同じ鏡がある。
なんか引っかかるんだけど、今はそんなことよりもビクニだよ。
「大丈夫かビクニ!?」
彼女の体にはどこにも傷はなく、どうやらぼくみたいに蹴り飛ばされたり、ソニックみたいに拷問されたりと酷い目には遭っていなさそう。
よかった、よかったぉ。
それだけ安心できるよ。
「おいビクニッ!? 起きろ! さっさとここから逃げるぞッ!」
ソニックは寝ているビクニの体を揺らして目覚めさせようとしたけど。
彼女にはまったく起きる気配がない。
ビクニの体からは、微かだけどたしかに魔力は感じるし、さっき言ったように傷一つないのに……一体どうしてなの?
「しょうがねえ。このまま連れて行く」
そして、ソニックは眠っているビクニを担いだ。
その顔を見るに、少しというか、かなり重たそうに見える。
もしビクニが起きていたら、そんなソニックを見て喚き散らすんだろうな。
そう思うとなんだか笑えてきた。
「なにを楽しそうに鳴いてんだよ、ググ?」
そんなぼくを見たソニックが、小首を傾げて不思議そうな顔をしてる。
こんなときに笑っている場合じゃないのはわかってるよ。
まだ逃げ出せわけでもないし、ビクニは眠ったままだけど。
でもさ、それでもさ、こうやってぼくらはまた会えたんだ。
それが嬉しいのと、あといつもの二人のやりとりを……その光景を思い出すと、なんだか楽しくなっちゃったんだよ。
「まあいい。とりあえず外へ出るには……」
ソニックは鳴いているぼくを無視して、部屋の中を見渡していた。
この部屋には、一応窓はあったけど。
開かない造りになっていて、おまけに魔法でバリアみたいなものが張られている。
ソニックがぼくの魔力を全開で引き出せば壊せないこともないだろうけど。
あとのことを考えると、あまり良い作戦じゃないよね。
だって、もしこの窓に張られた魔法がかなり強力なものだったら。
それだけでぼくの魔力が尽きちゃうかもしれないもの。
そしたらまた捕まっちゃうよ。
「無駄な力は使わねえほうがいいな。よし、ググ。このまま出口の扉までぶっ飛ばすぞ」
どうやらソニックもぼくと同じことを考えていたみたい。
窓に手を触れて、その魔法バリアの強度を確認していたよ。
うん、そうそう。
ソニックにはお得意の高速で動ける魔法――ファストドライブがあるんだ。
それさえ唱えれば衛兵なんか捕まることなんかないし、あのワルキューレだって追いつけるはずないものね。
「行くぜ、ファストドライブ!」
ぼくの体からソニック体へと魔力が流れていく。
正直この――力が抜けていく感覚はあまり好きじゃないけど。
今は我慢だよ。
そして、ビクニを抱えて頭にぼくを乗せたソニックは、コウモリの翼を広げ、もの凄い速度で灰色の廊下を進んでいった。
ビクニの重さもプラスして、前以上にフラフラと不安定な上、スピードが速い分ソニックがつらそうだったけど。
それでも灰色の壁を蹴りながら、ぼくらはあっという間に出口の扉までたどり着いた。
もう外は目の前だ。
やったよ。
これでひとまず安心だね。
「よし、ググ。このまま扉をぶち破って城壁の外まで行くぞ」
ソニックの声色も、ぼくの気持ちと同じように安心したものなっている。
ここまで来ればもう大丈夫だって。
そう思っていたんだけど……。
「衝撃に備えろよググ!」
そして扉をぶち破ると、そこには――。
「ずいぶんと遅かったな。待ちくたびれたぞ」
戦乙女ワルキューレが衛兵を連れ、ぼくらを待ち構えていたのだった。
