第百三十八話 捕獲
ヴァイブレが消し飛ばされた後――。
ぼくらはまた大広間に連れていかれたよ。
「ビクニ、ググ……お前ら……? くそッ!? ヴァイブレはとうした!?」
「ヴァイブレさんは私たちを守ろうとして……ワルキューレに……」
そこにはソニックもいて、ヴァイブレのことをビクニから聞いた彼は酷く悲しそう顔をしていた。
当然だよ、ぼくだって悲しい……。
でも、ソニックの悲しい気持ちには及ぶはずもない。
きっとヴァイブレは、ソニックが生まれたときからずっと傍にいたんだろうから。
そのことを考えると、ますます悲しくなっちゃう。
「ソニック……ごめんなさい……私のせいでヴァイブレさんが……」
「お前のせいじゃねぇよ。ヴァイブレは吸血鬼族の中でも最古の騎士だ。自分が死ぬ瞬間までその矜持を貫いただけにすぎない。気にすんじゃねぇよ」
「……うん。ありがとうね、ソニック」
ビクニとソニックが怒鳴りあわずに話してる。
まだわだかまりが消えたわけじゃないんだろうけど、お互いに気を遣える状態に戻ってる。
これも全部ヴァイブレのおかげだよ。
「ほう。老いぼれ吸血鬼の死が貴様らの仲を戻したか」
ワルキューレは、そんなビクニとソニックを興味深そうに見ていた。
それにしてもなんでぼくらを殺さないんだろう?
さっき始末するとか言っていたのに。
「てめぇ……何が狙いだ?」
ソニックはもうボロボロにやられていたけど。
鋭い眼差しをワルキューレへと向けていた。
きっと彼は、まだ負けを認めていないのかもしれない。
訊ねられたワルキューレは笑みを浮かべると、そっとソニックに手をかざした。
何かの魔法なんだろう。
ワルキューレが手をかざすと、ソニックの手足に光の枷が現れる。
「なに、少しばかり試したいことがあってな。そのためにはどうしてもお前たち二人が必要だったということだ」
そして、ワルキューレは次にビクニにも同じような魔法をかけ、手足を拘束した。
当然ぼくのこともだ。
それから衛兵が現れて、なぜかビクニだけを連れて行ってしまう。
「ビクニッ!? クソッたれ! あいつはお前らと同じ女神の使いだろ!? 放してやれよ」
「安心しろ。暗黒騎士にはまだやることがある。まだ殺したりはせんよ。それよりも貴様は、自分の心配をしたほうがいい」
ワルキューレがそう言うと、集まっていた衛兵たちがぼくらを袋叩きにした。
薄れていく意識の中でぼくが最後に見たのは――。
手足を光の枷に拘束されたソニックが、衛兵たちの足に噛みついているところだった。
「ビクニを放せ! 放せよッ!」
ああ……ソニックは強いなぁ……。
彼はビクニの血を吸まなきゃ魔力も体力もないのに……。
それなのに……いつだって諦めないんだ……。
自分の命が危ないのに……。
ビクニのために必死になって戦ってる……。
ぼくも……ソニックみたいに……頑張らないと……。
「こいつはどうしてここまで暗黒騎士を助けようとするんだ? 契りを結んだ吸血鬼というのはこういうものなのか? ……まあいい。愚者の大地の住民たちを従わせた方法が、貴様にも効くかどうかこれから試してやる」
そして、それが意識を失う前にぼくが聞いたワルキューレの言葉だった。
