第百三十三話 要塞のような大聖堂
それから――。
ぼくとビクニは集まってきた衛兵たちによって、大きな建物へと連れて行かれたよ。
そこは他の四角い住居とは違って、なんだか教会みたいな外観なのに、強固な要塞みたいな建物だった。
やっぱり女神を信仰するだけあって、ここは大聖堂みたいなものなのかな?
それにしても神々しいというよりは威圧感があって、結局見た目は住居と同じ灰色だから気味悪い。
「ググ。静かにしてね」
ぼくは思っていたことを鳴いて伝えようとしたけど。
無表情のビクニから鳴かないように言われてしまった。
そうなるとぼくは黙るしかない。
だけど、このままついていって大丈夫なのかな……。
この建物を見るとすごく嫌な予感がするよ……。
そして灰色の大聖堂の中へと入って、ただ衛兵たちに言われるまま進んでいくぼくたち。
中もやっぱり灰色でこの建物は教会みたいなのに、神父や修道女よりも看守や囚人でもいそうな雰囲気だった。
ホントに大丈夫なのかな……。
「ここに入れ」
衛兵たちが立ち止まって、その中の一人がぼくらに言った。
そして、目の前にある扉が開かれていく。
「……ここはちゃんと教会みたいな感じね」
扉の中に入ってビクニがボソッと呟いた。
どうやら彼女もぼくと同じで、この建物を教会みたいなものと思っていたみたい。
扉の中の内装は、束ねたみたいな柱がすごく高い天井を支えていて、壁には女神が描かれたステンドグラスが付けられていた。
でも、やっぱり灰色。
せっかくの豪華なステンドグラスなんだから、もっとカラフルにすればいいのになんかもったいない。
「来たか、暗黒騎士ビクニ……」
奥には、甲冑姿の女性がパイプオルガンの前に座ってぼくらを――いや、ビクニのことを見つめていた。
その様子を見るに、どうやら甲冑姿の人はビクニのことを知っていそうだった。
この人がビクニの幼なじみなのかな?
それにしてはビクニと歳が離れすぎているように見えるし、何よりもこの女の人……人間じゃない。
見た目じゃわからないけど、幻獣のぼくにはわかる。
この人は亜人だ。
だけどなんだろ?
この人からは、聖騎士と同じような力を感じる。
戦乙女って聖属性なのかな?
「リンリはどこッ!?」
ぼくが首を傾げているとビクニが突然大声で訊ねた。
その言葉を聞くに、やっぱりこの人が戦乙女――ワルキューレなんだ。
「答えてッ! 私の幼なじみ、晴巻倫理はどこにいるのッ!?」
叫んだビクニが歩を進めてワルキューレに近づこうとしたとき、突然大広間にパイプオルガンの音が響き渡った。
なんの曲かはわからないけど、とても仰々しくて壮大な感じの旋律が、高い天井や灰色の壁に反射して、まるでぼくらを攻撃しているみたいだ。
「くッ!? なんなのこの音!?」
人の声みたいなパイプオルガンの音が、ぼくとビクニを押さえつけてくる。
そうか、わかったよ。
なんでぼくやビクニがこの音を聴くと苦しくなるのか。
この音には聖属性の魔力が込められてるんだ。
暗黒騎士であるビクニや、人間や亜人の悪い心を食べるぼくみたいな幻獣には、この音は不快すぎる。
「フン、この程度の魔力でその体たらく。だらしがないな、暗黒騎士」
「うるさいッ! あなたがワルキューレね! いいからリンリがどこにいるのか教えなさいッ!」
ビクニがめげずに言葉を返すと、ワルキューレはパイプオルガンの演奏をやめた。
そして、兜に付いた羽を揺らしながら、ぼくらのほうへと向かってきた。




