第百三十話 事の顛末
それからヴァイブレの勘違いを直すことを諦めたソニックと、顔を赤くしているビクニは、この涙ぐんでいるおじいちゃんの話を聞くことに。
ほんの少し前――。
愚者の大地に大きなドラゴンに乗った聖騎士の少女が現れた。
その聖騎士の少女は、瞬く間に愚者の大地の権力者たちを討ち滅ぼし制圧。
その中にはソニックの父親である吸血鬼族の王ラヴブラッドもいた。
「えぇッ!? じゃあやっぱりソニックは本物の王子さまなのッ!?」
ビクニが驚きのあまり、その場で喚きなからウロウロし始めている。
ぼくはそんな落ち着かない彼女を見ているのが楽しくて、つい笑うように鳴いてしまっていた。
「知らなかったのですか? ソニック王子はこの愚者の大地でも有数の権力者ラヴブラッド様の御子息。ハーフヴァンパイアといえ、吸血鬼族なら知らぬ者はいないと思っておりましたが。婚約者様はどこの生まれでしょうか?」
「ヴァイブレ。この女のことはいいから話を続けろ。それとそんなどうでもいいことを誰が話せと言った? 俺は“今の愚者の大地”のことを訊いたんだ」
氷の魔法でも使ったみたいな冷たい声を出したソニック。
なんだかちょっと怒っているみたいだった。
言われたヴァイブレは申し訳ないとばかりに頭を下げた。
なんだかソニックがいつも以上に偉そうに見えるよ。
いや、王子さまだから実際に偉いのかな?
まあ、いいや。
それからコホンと咳払いしたヴァイブレは、また話を始めた。
聖騎士の少女がいくら強かろうと、愚者の大地の権力者たちも負けてばかりではない。
今までいがみ合っていた彼らだったけど。
聖騎士の少女のあまりの強さや、自分たちが住む国が破壊されたのもあって、生き残った権力者たちは協力し合い始めたみたい。
ヴァイブレも主であるラヴブラッド王の仇を討つために、生き残った吸血鬼族の人たちと一緒にその戦いに参加したみたいなんだけど――。
「しかし、それでも結果は敗退。敗因は数えればきりがないですが……。一番の理由は聖騎士側に戦乙女……ワルキューレという戦士が現れたことでしょうな……」
だけど、愚者の大地を制圧した聖騎士は、その戦乙女ワルキューレに命令して、生き残った愚者の大地の権力者たちをすべて殺しちゃったんだって。
命からがら逃げ出したヴァイブレは、吸血鬼族だけが知る地下の通路に隠れて、そのワルキューレに殺されずにすんだみたい。
「しかし、こうやってまた行方不明になっていたソニック王子と会えるとは……。このヴァイブレ、恥を忍んで生き延びた甲斐がありました……」
ヴァイブレはそう言うと、急に泣き出しちゃった。
いや、ずっと我慢してたんだね。
仕えていた王様も――。
同じ一族の仲間も――。
みんなみんな殺されちゃって、ずっとこんな暗いところに隠れて生きてきたんだもん。
そりゃ王子さまのソニックに会えたら泣いちゃうよね。
「ヴァイブレ。泣いてないで話を続けろ。早くここで何が起きているのか話せ」
だけど、ソニックは変わらず冷たい態度。
元々わかりやすく優しくするタイプじゃなかったけど。
なんだか今日はいつも以上にキツイよ。
「ちょっとソニック! ヴァイブレさんの気持ちも考えてあげなよ!」
そんなソニックの態度を見て、ビクニが怒鳴り始めた。
せっかく会えた吸血鬼族の生き残り同士なのに、どうしてそんな言い方しかできないのか?
ソニックが生きていたことを知って涙を流してくれている人物に、そんなことを言うもんじゃないって――大声で喰って掛かる。
「お前には関係ない」
「関係あるよ! 私たちはもう他人じゃないでしょ!」
言い争いを始めちゃったソニックとビクニだったけど。
ヴァイブレは何故か歓喜に震え、上着のポケットから出したハンカチで涙を拭っていた。
「おお……やはり二人は親密な関係なのですね……。このヴァイブレ……大変差し出がましいですが。まるで我が子のことのように嬉しく思いますぞ」
あらら、おじいちゃんの勘違いが余計にこじれちゃったよ。
まあ、ぼくは楽しいからいいけどね。
それにビクニとソニックが仲良しなのはホントだし。
「だから何を勘違いしてんだヴァイブレッ!」
「ヴァイブレさん! 違うのッ! 他人じゃないっていうのはそう言う意味じゃなくてぇッ!」
ソニックもビクニも必死に誤解を解こうとしたけど。
ヴァイブレは二人の話なんて聞かずに、食事の準備を始めると言って部屋から出て行ってしまった。
「お前が誤解するようなことを言ったからだ!」
「なによ! 私のせいだって言うの!? だいたいソニックの態度が悪いんじゃない!」
残されたぼくら――いや、ビクニとソニックはまた言い争いを始めたのだった。




