第百二十九話 地下に住む老人
開いた地面に入ると中は真っ暗で何も見えない。
そんな暗闇のため頭に乗っているぼくにも、ビクニがソニックの体にしがみついて震えているのがわかる。
「おい、誰だか知らないがこの街のことを詳しく教えろ」
でも、ソニックは暗くて周りが見えなくても、全く動じてはいなかった。
吸血鬼族だから暗闇でも相手のことや周りの様子がわかるのかな?
それにしても、怪しいとはいえ衛兵に追いかけられているところを助けてくれたんだし、そんな脅すような言い方はどうかなぁ……。
きっと言われた相手は怯えるか苛立つかで、どちらにしてもあまり良い感情は持てないと思うんだけど。
ソニックはこういうところが常識がないっていうか……。
反対にビクニは知らない人と話すのが苦手で、そんな二人がそろったぼくらの旅はいつも不器用な感じ。
ぼくがそんなことを考えていると、地面に入るように誘った人物は、予想もしてなかったことを言い始める。
「その声はもしかして!? ソニック王子ですか!?」
ソニック王子?
暗闇から聞こえる声に、ぼくは小首を傾げていた。
たぶんだけど、ビクニもぼくと同じように首を傾げているはずだ。
だってこんな乱暴な感じのソニックが、王子さまなんてなんか変だもん。
「そういうお前は……ヴァイブレなのか!? 生きてたんだな!」
そう叫んでいるソニックを見るに――。
ぼくらを地面に入るように誘った人物が、とりあえず味方なのだということがわかった。
それにしても生きていたんだなって……この二人には一体何があったんだろう?
それからぼくらを地面に入るように誘った人物――ヴァイブレに案内されて、真っ暗な暗闇の中を進むことに。
「こんなリアルお化け屋敷なんて来たくなかったよぉ」
いまだにソニックの体にしがみついているビクニは、震えながら呟いてる。
ビクニはお化けが怖いの?
でもさ、ソニックに血を吸われ続けたビクニは、もうハーフヴァンパイアなんだけど。
それでもお化けが怖いんだなんて、なんか変な感じ。
「なあヴァイブレ。今愚者の大地はどうなっているんだ?」
暗闇を歩きながらソニックが訊ねた。
何故荒れ地だったこの大地がすべて石畳の道になっているのか――。
何故街が城壁に囲まれているのか――。
何故無法地帯に近かった愚者の大地に、衛兵のような連中がいるのか――。
ソニックは落ち着いた様子で訊いていたけど。
ぼくにはなんだか早口に聞こえた。
「今はとりあえず安全な場所へ行くことが第一でございます。この大陸の現状はそこへ着いてからしましょう」
ヴァイブレがしゃがれた声でそう言うと、ソニックは「わかった」と不機嫌そうに返事をした。
それからしばらく進むと、ビクニが弱々しい声でソニックに声をかけ始めた。
今ぼくらの前を歩いているヴァイブレという人物は、ソニックとどういう関係なのか?
それと王子と呼ばれていたけど、ソニックは王族だったのか? って。
「愚者の大地の現状よりも、私的にはそっちのほうが気になるんだけど……」
ビクニの言葉を聞いたソニックが何か言おうとすると、突然扉を開ける音がすると、光がぼくらを包んだ。
どうやらヴァイブレが言う安全な場所とやらに到着したみたい。
ヴァイブレはこの地下に住んでいるのかな?
なんだかこの入った部屋には、誰かがずっと暮らしていた生活の匂いを感じる。
「ビクニ。今は愚者の大地の現状を知るのが先だ」
そう言ったソニックは、後で全部話すと続けて、ビクニの顔を見つめた。
急に見つめられたビクニが戸惑っていると――。
「お前、いつまで俺の体にくっついてんだよ」
「なッ!? ……うるさい! ソニックのバカッ!」
そして、ビクニはソニックの頬をペシッとと叩いた。
ソニックは何で叩かれたのかわからずに不服そうだったけど、ビクニが恥ずかしかったからってわからないのかな?
でも、ソニックが不服そうでもぼくは楽しいからいいや。
「王子、愚者の大地から離れている間に恋人を作られたのですね。しかもハーフヴァンパイアとは……ヴァイブレは嬉しく思いますぞ」
明るいところへ出たおかげで、ようやくヴァイブレの姿が見えた。
ヴァイブレは髪も髭も真っ白な老人で、ソニックが着てる服に似た燕尾服姿だ。
どことなく気品を感じさせる理由は、この人がソニックの家の執事か何かだったからなのかな?
「おいヴァイブレ。この女は別に恋人じゃねえよ。勝手に勘違いするな」
「亡き御父上――ラブブラッド様もきっと喜んでいらっしゃるでしょう」
ソニックは、目に涙を浮かべているヴァイブレに、呆れながらもビクニとの関係を説明したけど。
どうやら喜びのあまり話が耳に入っていないみたい。
よっぽど嬉しいんだね、このおじいちゃん。
「では、ソニック王子。そして王子の婚約者様。早速この大陸で何が起きているのかのお話をさせていただきます」
「おい。ほんのちょっとの間に恋人が婚約者に格上げしてるぞ……」
愚者の大地の現状を話し始めようとするヴァイブレに、ソニックはため息をつきながら言った。
