第百二十六話 到着
大きな船から小さな小舟に乗り換えて、目の前に見える陸へと到着。
それから小舟を隠して、ぼくたちはまた新しいところを歩いていた。
といっても、ぼくはソニックの頭の上にいるから正確には地面に足をつけてはいないんだけど。
ぼくの特等席でお気に入りの場所――ソニックの頭の上。
体の小さいぼくにとってここはとても居心地が良い。
「ほらググ。いつまでも寝てんじゃねよ」
ソニックはめずらしい種族――吸血鬼族で、そして今はぼくの大事な乗り物。
だけどこの乗り物は、ときおりぼくの眠りを妨げるんだ。
海の上なんて慣れないところにずっといたから、すっかり睡眠不足なのに。
酷いよソニック。
「ここが“愚者の大地”かぁ。なんか想像していたのと違ったなぁ」
ソニックの横を歩く女の子、雨野比丘尼ことビクニが、なんだか不思議そうに周りを見てる。
この子はこう見えても暗黒騎士。
その証拠に、その腕には暗黒騎士にしか扱えない魔道具が付けられている。
この魔道具はビクニの意思で、とてつもなく強力な魔剣へと変化することができるんだ。
「ねえソニック。愚者の大地って前からこんなとこなの?」
ぼくの体の下にいるソニックが、ビクニの言葉を無視して周りを見渡していた。
その顔は何かに警戒している。
でも、なんだかビクニとはちょっと違うけど、今ぼくらが歩いている愚者の大地の風景に、少し驚いているような感じだった。
「ねえソニック! 私の話聞いてるッ!?」
声を荒げ始めたビクニ。
それから何を言ってもソニックが何も答えないので、彼女は次第に喚き始めた。
「うわ～ん、ソニックが私のこと無視した! シカトした! ないがしろにしたぁぁぁ!」
「うっせえぞビクニ! 静かにしろ! 誰かに見つかったらどうすんだよ!?」
「あッ! やっと返事したと思ったらなにその言い方ッ!?」
ようやく返事をしたソニックに、さらに喰って掛かるビクニだった。
この二人はいつも喧嘩ばかり。
だけどぼくは知ってる。
ビクニもソニックも、お互いのことをとても大事に思っている。
ぼくはそれが嬉しい。
「あれ? なんかググが嬉しそうに鳴いてる」
そう――ぼくの名前はググ。
人間や亜人の悪い心を食べる幻獣バグだよ。
名付けてくれたのはビクニだ。
ぼくはこのググという名前がすごく気に入っている。
「ググの奴はなぁ。なんだかよくわからないが、お前が喚くといつも嬉しそうにしてるぞ」
「何よそれ!? それじゃ私がいつも喚いてるみたいじゃない!」
「そんなこと言ってねえだろ!」
また喧嘩を始めてしまうビクニとソニックだけど。
ぼくは二人と一緒にいれてとても幸せだ。
ビクニはこの愚者の大地に、幼なじみの聖騎士の女の子を捜しに来ていた。
これまでいろいろ大変なことがあったけど。
道案内を買って出たソニックのおかげで、ついに目的地にたどり着いたんだ。
だけどソニックが言うに、この愚者の大地は草木も生えない荒れ地で、そこら中が干上がった地面をしているはずなんだけど。
ぼくらが歩いている道はすべて石畳でできていて、草木は生えてないけど、とても整備されていた。
聞いていた話だと愚者の大地って、狂暴なモンスターが生息し、世界地図上でも空白の無人扱いされている場所で――。
そこは、国を追われたお尋ね者や、迫害を受けた異種族や、善良な世界に相容れぬ魔族たちが暮らしているとかいう話じゃなったっけ?
それなのに、なんでこんな綺麗な道ができているんだろ?
でも、きっとぼく以上にソニックのほうが驚いているんだろうな。
だって話と全然違うんだもん。
「なんにしてもまずは情報がほしい。たしかこの近くに大きな街があったはずだ。とりあえずそこへ行くぞ」
「うん。道案内はソニックにお願いします。――よし! 待っててねリンリ! すぐに見つけるから!」
「だからデカい声を出すんじゃねえッ!」
そして、また口喧嘩を始める二人を見たぼくは、嬉しくて大きく鳴いたのだった
