表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/215

第百二十話 似合わないこと

俺は()り落とされた剣を魔力(まりょく)()めた両腕(りょううで)で受け止めた。


ルバートが使っている剣は、由緒(ゆいしょ)(ただ)しいなんとかとか、伝説(でんせつ)のうんぬんなどではなく、どこにでもあるただの鋼鉄(はがね)のものだ。


どこにでもあるありふれた武器(ぶき)なんかを、魔力を(まと)った俺の体に振り落とせば、当たった瞬間(しゅんかん)粉々(こなごな)になるのだが、そうはいかなかった。


それはルバートの(はな)強烈(きょうれつ)剣圧(けんあつ)が、どこにでもあるありふれた剣を強化(きょうか)しているからだった。


世界最強(せかいさいきょう)の名は伊達(だて)ではない。


達人(たつじん)得物(えもの)(えら)ばないというが、ルバートはまさにそれだった。


かといって、受け止めた俺の両腕が切り落とされたわけではない。


当然だが、ビクニの()()った俺のほうが、すべてにおいて上回(うわま)っていることを、ルバートの一太刀(ひとたち)()びて理解(りかい)した。


このまま(ちから)(まか)せて(やつ)仕留(しと)めるだけなら簡単(かんたん)だったんだが……。


「どうやら本気(ほんき)を出せないみたいね」


セイレーンが空中(くうちゅう)からクスクスと笑い、俺とルバートのことを見下(みお)ろしていた。


「まさかあの(むすめ)が自分の血を吸わせるなんて思わなかったけど。それじゃ、せっかくの力が無駄(むだ)になっちゃうわ」


手を出せないことに(かん)づいたセイレーンがそういうと、ルバートの猛攻(もうこう)が始まった。


それはまるで雨のようで、一度の振りで無数(むすう)の剣が(おそ)いかかって来るようだった。


だが、こんなものではやられはしない。


たとえ今が朝だろうが、剣の動きはすべて見えている。


どんな達人だろうが、今の俺から一本取るのは至難(しなん)(わざ)だ。


しかし、それでもルバートを(ころ)さずに止めるのは非常(ひじょう)困難(こんなん)――いや、正直不可能(ふかのう)だ。


ルバートの実力(じつりょく)は、俺が想像(そうぞう)していた以上(いじょう)のものだった。


だからといって、ここでこの吟遊騎士(ぎんゆうきし)(いのち)(うば)えばビクニとの約束(やくそく)……いや(ちが)う。


この国で(ふね)()りることができなくなる可能性(かのうせい)がある。


そしたら目的地(もくてきち)である愚者(ぐしゃ)大地(だいち)へと行けなくなってしまう。


俺はルバートの(あらし)のような剣を受けながら、そう考えた。


そうだ……。


(だん)じてビクニと約束(やくそく)したからとか、奴が(かな)しむからとかではない。


「何をしているのルバートッ! さっさとその吸血鬼(きゅうけつき)を殺しなさいッ!」


いつまでも手間取(てまど)っているルバートを見たセイレーンは、苛立(いらだ)ったのか(きゅう)怒鳴(どな)り始めた。


俺はその声と、剣の打撃音(だげきおん)を聞きながら考える。


(さき)にセイレーンのほうを始末(しまつ)すれば、ルバートにかけられた呪縛(じゅばく)()かれるかもしれない。


だが、それはできない。


何故なら、今俺はルバートの攻撃(こうげき)を受け切るので精一杯(せいいっぱい)だからだ。


むしろ、空中にいるセイレーンが動かないでくれているのが()(がた)いくらいだ。


なら、やはりルバートに自力(じりき)正気(しょうき)(もど)ってもらう(ほか)ない。


しかしだ。


それは期待(きたい)できないのだ。


それは、過去(かこ)精霊(せいれい)魅入(みい)られて、正気に戻れた者などいないからだ。


精霊は気に入った者を誘惑(ゆうわく)し、その人物(じんぶつ)欲望(よくぼう)欲求(よっきゅう)などの(こころ)(よわ)みに付け()んでくる。


だから、それに(あらが)える者などいないのだ。


どんな奴だって、自分が心の奥底(おくそこ)での(のぞ)むことに(さか)らえるはずがない。


この聖人君主(せいじんくんしゅ)見本(みほん)のような男だったルバートだってそれは同じだ。


いや……ちょっと待てよ……?


俺は見たぞ……。


ビクニの奴が死ぬ思いをして説得(せっとく)したことで、正気を取り戻したリム·チャイグリッシュのことを……。


「……それなら、やる価値(かち)はあるってことか……」


俺が笑みを()かべてそう(つぶや)くと、ルバートは振る剣の速さをさらに上げ始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ