表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/215

第百十七話 計算ミス

立ち上がった俺は(ゆび)をパッチンと()らした。


すると、ルバートの真下(ました)から魔法陣(まほうじん)()かび上がり、(すさ)まじい魔力(まりょく)がその体を(しば)り上げた。


昨夜(さくや)にググの魔力を使って仕込(しこ)んでおいた(わな)の魔法――イージートラップだ。


いくらルバートが剣士(けんし)として(つよ)くても、魔力耐性(たいせい)(たい)したことがないと()んでいた俺は、いざというときのために用意(ようい)しておいたんだ。


「どうだ? 一晩(ひとばん)()かせておいた幻獣(げんじゅう)バグの魔力の(あじ)は?」


ググの(やつ)はあんな小さな体をしているが、本気(ほんき)を出せば一国(いっこく)(ほど)ぼせるほどの魔力を持った幻獣。


たとえ精霊(せいれい)だろうと、この罠の魔法を()くことは不可能(ふかのう)だ。


俺が挑発(ちょうはつ)するように(たず)ねても(だま)っていたセイレーンだったが、不機嫌(ふきげん)そうな顔から一転(いってん)、笑みを浮かべてこちらを見つめてくる。


その直後(ちょくご)、突然ルバートが(たお)れた。


「もう潮時(しおどき)のようね。まあ、ちょうど()きていたし、この国も終わらしちゃおう」


そう言ったセイレーンは、幽霊(ゆうれい)のようだった体からその実体(じったい)(あらわ)し、()()えた鳥の(つばさ)(ひろ)げて空へと()い上がった。


俺は、まさかセイレーンに罠の魔法が通じないとは思わなかった自分の配慮(はいりょ)のなさを()やんだ。


だが、すぐに自分のコウモリの翼を広げて追いかける。


奴は“飽きていた、終わらせる”と言った。


なら、これから一体(いったい)何をするつもりなんだ?


上空(じょうくう)でピタリと止まったセイレーンは、そのまま翼を広げた状態(じょうたい)で口を大きく開けて歌い始める。


その音量(おんりょう)は、まるで(りゅう)咆哮(ほうこう)かというくらい大きなものだった。


だが、そのセイレーンの歌声は美しく、メロディーは物悲(ものがな)しく、まるで言葉にできない不安(ふあん)(いか)りを(つた)えているかのようだ。


「おい(こた)えろセイレーンッ! 今の歌はなんだッ!?」


俺が怒鳴(どな)って訊くと、セイレーンは(うれ)しそうにその鳥の翼を動かした。


「さっき言ったでしょう? この国を終わりにするのよ。そして、最後(さいご)なんだかみんなの(のぞ)みを解放(かいほう)してあげるの。私のこのルナティックサウンドでね」


そして、セイレーンは歌い続けた。


ルナティックサウンドというのは、(じゅつ)をかけた対象者(たいしょうしゃ)(あやつ)る魔法だ。


だが、どうやらセイレーンはその自分の歌声に魔力を()せて、この海の国マリン·クルーシブルにいるすべての住民(じゅうみん)(あやつ)るつもりのようだ。


俺は地上(ちじょう)を――中心街(ちゅうしんがい)様子(ようす)を見てみると、そこら中で人間たちと亜人(あじん)たちが武器(ぶき)を持って(ころ)し合いを始めていた。


「なんて魔力だ……本当に国中(くにじゅう)にルナティックサウンドをかけちまったのか……?」


「あら? でも、あなたには()かないのね。なんて(にく)ったらしのかしら。いいわ、この国の奴らよりもあなたを(さき)始末(しまつ)してあげる」


セイレーンは、その鳥の翼を動かし、無数(むすう)羽根(はね)をまるでナイフのように飛ばしてきた。


速度(そくど)を上げる魔法ファストドライブを(とな)えれることができれば()けられたのだが、当然今は朝なので使えない。


俺は全身(ぜんしん)にそのナイフのような羽根を受け、建物(たてもの)屋根(やね)(たた)き落とされてしまった。


「ちくしょう……本来(ほんらい)の魔力が(もど)れば……あんな精霊ごときに……」


「まだ生きてるの? あなたは吸血鬼(きゅうけつき)なんだから不死身(ふじみ)なのは夜だけにしてよ」


そして、セイレーンが(ふたた)び翼を動かし、俺へ(とど)めを()そうとした瞬間(しゅんかん)――。


「ソニックを殺しちゃダメェェェッ!」


よく知っているヒステリックな女の声が聞こえた。


俺が倒れながらも声のするほうを見ると、ビクニが屋根の上に立っている。


そして、その手にはビクニだけが(あつか)える暗黒騎士(あんこくきし)魔剣(まけん)があり、どうしてだが奴の背丈(せたけ)()えるほど(やいば)が大きくなってた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ