表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/215

第百十五話 揺さぶり

ルバートを()れて道を(ある)く。


前に中心街(ちゅしんがい)へ来たときはもう少し(ひる)(ちか)かったせいか、今さらだが少し肌寒(はだざむ)く感じる(あさ)の空気を感じた。


いや、そういえば昨日(きのう)(よる)にも来たんだったな。


ともかく空気が()んでいた。


喧騒(けんそう)も人ゴミもない中心街の道はやけに(ひろ)く感じられる。


水路(すいろ)(はし)があるため(せま)いのはたしかなのだが、自分たち以外(いがい)は誰もいないというだけでここまで(ちが)うものか。


何にしてもやはり(しず)かなほうがいい。


俺にとってこの国は(にぎ)やか()ぎる。


ふと(まわ)りを見ると、目の前に(なら)んでいる石造(いしづく)りの商店(しょうてん)はどこも閉まっていた。 


そして、(ひがし)(そら)がやたら(あか)るい。


そこまで見て、ようやく今が早朝(そうちょう)なのだということに気がつく。


どうやら俺もググもあまり長くは(ねむ)っていなかったようだ。


一体(いったい)どこまで行くつもりなんだ? 誰かに聞かれたくない話をしたいのだろうがもう(まわ)りに人はいないぞ」


(うし)ろからついてきていたルバートが俺に向かってそう言った。


その口調(くちょう)からして、さすがに人の()(やつ)でも少し(あき)れているような言い方だった。


ルバートがそう思うのもしょうがないことだ。


いきなり話があると言われ、目的地(もくてきち)も聞かされずに歩かされているのだからな。


俺はルバートに()を向けながらもう少しだと(つた)えると、少し歩く速度(そくど)をあげた。


そのとき――。


「はッ!?」


俺は立ち止まって、自分の背後(はいご)にいるルバートを見た。 


それは一瞬(いっしゅん)だけだが、背中(せなか)()()さるよう視線(しせん)を感じたからだ。


だが、俺が()り向いてもルバートは、ただ不思議(ふしぎ)そうな顔をしているだけだった。


そのときの奴の目は、俺の知っているルバートの(おだや)やかな眼差(まなざ)しだ。


俺の勘違(かんちが)いか?


さっきの(はだ)(おか)されるような感覚(かんかく)


まるで生き物を玩具(がんぐ)にでも見るのような、浮世離(うきよばな)れしている無遠慮(むえんりょ)過ぎる視線。


たとえ今のが勘違いだったとしても、このままルバートと二人で話をするのは危険(きけん)かもしれない。


「この(へん)にするか」


俺は人気(ひとけ)のない路地裏(ろじうら)で立ち止まると、そこにあった(たる)の上に(こし)をかけた。


ルバートは立ったまま、両腕(りょううで)を組んで、俺が話し始めるのを待っている様子(ようす)だ。


さて、ここでルバートが昨夜(さくや)放火犯(ほうかはん)だった場合(ばあい)


俺が()()めれば、口封(くちふう)じに(ころ)される可能性(かのうせい)は高い。


かといって、大勢(おおぜい)の前でルバートが犯人だと(うたが)ったところで、本人(ほんにん)反応(はんのう)を見る前に邪魔(じゃま)されて(しま)いだ。


リスクは高いが、奴と二人っきりで話す方法(ほうほう)しかない。


残念(ざんねん)なことに今は朝。


この体で唯一(ゆいいつ)(とな)えられる速度(そくど)を上げる魔法(まほう)――ファストドライブも使える状態(じょうたい)ではないため、殺されそうになっても逃げるの不可能(ふかのう)


なら(ほか)の方法――俺がコウモリの(つばさ)上空(じょうくう)へ飛んだら?


それも無理(むり)


ルバートの身体能力(しんたいのうりょく)はクラーケンとやりあったときに見た。


おそらく俺が動いた瞬間(しゅんかん)に翼をへし()られるだろう。


本当に(こま)ったもんだが、手がないわけじゃない。


そのために昨夜動いていたしな。


「おいおいソニック。いつになったら話を始めるんだい?」


いつまでも(だま)っている俺にしびれを切らしたルバートが、少し不機嫌(ふきげん)そうに言った。


こうやって見るとわかるが、この吟遊騎士(ぎんゆうきし)は思っていたよりも(こら)(しょう)がないようだ。


国のためにずっと我慢(がまん)してきたような奴だが、性根(しょうね)では待つのが苦手(にがて)なんだろうなと思った。


「お前は(いそが)しそうだから単刀直入(たんとうちょくにゅう)に訊くぜ」


「ああ。早く()むと助かる」


やはりルバートの辛抱強(しんぼうづよ)さは()我慢(がまん)のようだな。


顔には出ていないが腕を組んだり、その口調からわかる。


「ルバート……昨日の放火はお前がやったんだろ?」


そう俺に言われたルバートは、表情(ひょうじょう)一つ変えなかった。


むしろ呆れて、何を言っているんだ? とでも顔に書いてあるようだった。


だが、奴の(はな)(みょう)瘴気(しょうき)()さは()していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ