第百十四話 正直な気持ち
それから俺とビクニはググを宿に残し、トロイアと共に中心街へと向かった。
ビクニが何故ルバートと会いたがるのかを訊いてきたが、俺は答えなかった。
今こいつに話すことではない。
それからもビクニに何度も訊かれたが、すべて適当にはぐらかしてやった。
俺がルバートと会いたがる理由は簡単だ。
それは、昨夜ルバートがどこで何をしていたかを訊くためだ。
俺は、昨日の火事の犯人がルバートではないかと疑っている。
いや、十中八九そうだろうと思っていた。
その理由はこの国に入ってから、あの現場に臭っていた妙な瘴気――。
それを漂わせていたのはあいつだけだからだ。
その瘴気があれだけ濃く現場に残っていたのだから、犯人は奴の可能性が高いはず。
だが、まだ誰にも話すべきではない。
何故ならそんなことを言ってもきっと誰も信用しないからだ。
たぶんビクニですら俺に、何を馬鹿なことをと言うだろう。
それに俺自身も思うが、ルバートが中心街を燃やしたとして、奴にどんな利益があるのかということだ。
ルバートは宮殿や中心街の連中に、旧市街の住民――亜人たちのことを受け入れてもらえるように日々努力している。
ならば、火をつけるなんて逆効果。
さらに揉めるようになってしまう。
だから、そこだけが引っ掛かる。
犯人はどう転んでもルバートなんだ。
だか、動機がない――いや、むしろ奴にとってはマイナスである。
直接会ってみて、ルバートの反応を見れば何かわかるかもしれない――。
とまあ、俺がルバート会いたがる理由はこんなところだ。
「ねえソニック、いい加減に教えてよ」
「おいおいな、おいおい」
「おいおいおいおい言われて納得できるかッ! 今言えッ!」
相変わらず俺には遠慮をしないビクニだった。
そんな俺たちを見て、トロイアがクスクスと笑っている。
「ニャハハハ。いやいや、二人とも仲がよろしいことで。夜はもっとスゴいんだろうね~」
そして、そんな意味のわからないことを言うと、ビクニの奴が顔を真っ赤にして黙った。
なんかとてつもなく嫌な感じがしたが、ビクニが喚かなくなったので良しとしておこう。
そして、中心街へと到着。
ビクニから聞いていた通り――。
街には中心街の住民たちと旧市街の亜人たちが、それぞれ協力して焼けた建物や水浸しになった道を直していた。
「おッ! みんなッ! 救世主様のお出ましだぜッ!」
馬鹿でかい声が聞こえたと思ったら、イルソールとラルーナが俺たちの傍へと近寄ってきた。
そして、そのでかい声のせいで他の連中まで集まってくる。
それから中心街の住民たちが揃って俺に礼を言い、旧市街の亜人たちは称え始めた。
正直、俺にはどうでもよくて煩わしいだけだ。
「別に感謝されたくてやったわけじゃねえよ」
「ガハハ。照れるなよ。このひねくれモンが」
俺が素直に自分の気持ちを言うと、イルソールに笑いながらバシッと背中を叩かれた。
ったく、手加減しろよ。
こっちはまだ全身が痛いんだからな。
だが、今はそんなことよりもルバートを見つけないと――。
「なあ、ルバートはここにいるんだろ?」
俺がイルソーレに訊ねると、この場所の反対の通りのほうにいると言われたので、そちらへと向かおうとした。
だが、連中が群がってきて一向に前へと進めない。
しょうがないので俺は、背中からコウモリの翼を広げて空へと飛び、その場所を目指した。
「コラ~ソニックッ! 私を置いて行くなッ!」
下からビクニの叫び声が聞こえたが、当然無視してルバートがいると言われた通りへ。
そして、上空から見下ろしていると、奴らしきの金髪の男が見えた。
ルバートは、けして派手な格好をしているわけではないが、遠目でもすぐにわかる。
それは、今日の奴も昨夜と同じくらい妙な瘴気を漂わせていたからだ。
俺がルバートいる地上へと降りると――。
「やあソニック。昨日は街を救ってくれてありがとう。君のおかげで被害が最小限で済んだよ」
相変わらずの爽やかスマイル。
俺は昨日の今日で犯行に及んだ奴がここまで笑顔でいられるのかと思わず怯んだが、気持ちを切り替えてルバートへ声をかけた。
「二人で話がある。ちょっといいか?」
「ああ、もちろん」
そして、俺はルバートに人がいないところへ行こうと言った。




