第百十一話 夜空から街を見下ろして
「ファストドライブッ!」
俺はこの体で唯一使える速度をあげる魔法を唱えると、そのまま火の手が広がっている中心街へと急いだ。
ドンドン離れていく地上からビクニの喚く声が聞こえたが、無視して先を急ぐ。
別にビクニのためじゃない。
この国のいざこざがいつまでも続くと、俺が愚者の大地へ行けないからだ。
「うん? なんだよググ?」
ググが下を見ながら鳴いてきたので、俺も見てみると――。
「……こいつは凄いな」
夜の空から見たマリン·クルーシブルは美しかった。
小さな灯りが運河や橋を照らしていて、とても幻想的な光景だ。
自分にもこんな感情があったのか……。
まさか景色を見て綺麗と思うなんてな……。
俺はまた自分でも想像もしていなかった感情に戸惑っていた。
もしかして俺は、自分でも気がつかないうちにあの女の影響でも受けてしまったのだろうか。
そんなことあるかッ!
たまたまそう思っただけだ。
あんな奴の影響なんてこの俺が受けるはずがない。
そんな俺を見ていたググは首を傾げて鳴いていた。
「さてとググ。悪いがこの後はしばらく動けなくなるかもしれないぜ」
俺がそう声をかけると、力強く鳴き返してくるググ。
その返事は、この小さな幻獣から覚悟を感じさせるものだった。
ググは何故自分だけが連れて来られたのかを理解していたんだな。
誰かさんとは違って要領がよくて本当に助かる。
「鈍いあの女も、お前くらい物分かりがよければいいんだがな」
そして、俺はググから魔力をもらい、呪文を唱え始めた。
その間も火の手は広がり、中心街の住民たちの叫び声が聞こえてきた。
……まだだ。
もう少しだけ待ってくれよ。
ググから俺の体に流れる魔力を練りあげ、全身の隅々まで行き渡るようにする。
それから、それを再び両手へと集め、強く握っていた手を広げていく。
本来の姿ならこんな時間をかけずにノータイムでやれるんだが。
ググの魔力を借りている上に、この体では強力な魔法を使うには少々負担がかかるためしょうがない。
だがこれで一発だけだが、本来の力と同じレベルの魔法が使える状態になった。
「サンキューググ。あとはゆっくり寝てろ」
鳴きながら俺の肩でグッタリとするググ。
すまないが、こいつの持つ魔力のほとんどは今俺の両手に集まっている。
凄い魔力量だ。
本来の姿の俺ほどじゃないが、ググの魔力も大したものだ。
本当にこいつがいて助かった。
これで街の火を消せる。
「さてと。じゃあいっちょブチかましてやるかッ!」
