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第百四話 議論と反論

ルバートに話を()られたビクニ。


俺は(べつ)心配(しんぱい)になったわけではないが、声をかけてやろうとすると――。


「じゃあ、私がこの国を見て思ったことを話させてもらいます」


そこには、氷海(ひょうかい)(こお)ってしまった(さかな)のように(かた)まっていたビクニはいなかった。


ただ()()ぐに貴族(きぞく)たちを見据(みす)えて、椅子(いす)から立ち上がる。


(よこ)で見ていた俺は、ビクニのその意志(いし)(つよ)さを感じさせる目を見て内心(ないしん)(おどろ)いていた。


前から思っていたかが、この女は思い切りがいいところがある。


俺がビクニの()()ったことによって、その体の三分の一が吸血鬼(きゅうけつき)()しているのもあったが――。


これまでの(たび)精霊(せいれい)やモンスターとの(たたか)いに生き(のこ)ってこれたのは、こいつがこういう性格(せいかく)だったからだと(あらた)めて思ってしまった。


ビクニにはきっと正義感(せいぎかん)の強い友人(ゆうじん)がいて、そして立派(りっぱ)人物(じんぶつ)(そだ)てられたのだろう。


無気力(むきりょく)で、だらしなくて、人見知(ひとみし)りで、(あたま)(わる)いくせに計算高(けいさんだか)くて、俺にだけ文句(もんく)ばかり言うが――。


決めるときは決める、そういう(やつ)だ。


そして、立ち上がったビクニの姿(すがた)を見たググは、俺の(かた)から応援(おうえん)するように小さく()いていた。


それからビクニは、自分が見てきたマリン·クルーシブルの感想(かんそう)を話した。


(みなと)からゴンドラに()って中心街(ちゅうしんがい)へ来たときに見た亜人(あじん)たちの覇気(はき)のなさ――。


旧市街(きゅうしがい)のスラム化や、そこにあった飲食店(いんしょくてん)人間族(にんげんぞく)だというだけで因縁(いんねん)をつけられたこと――。


そして因縁をつけてきた者たちでも、一度(いちど)馴染(なじ)んでしまえば種族関係(しゅぞくかんけい)なく仲良(なかよ)くなれたことなどを、貴族(きぞく)たちへ(つた)えた。


ビクニの話したことは、俺からすると幼稚(ようち)意見(いけん)でしなかった。


私は、亜人たちと喧嘩(けんか)したけれど仲直(なかなお)りできましたよ、といった子供が言いそうなことでしかない。


しかし、何故だか貴族たちは何も言い返さずに(だま)ってビクニの話を聞いていた。


こいつが大賢者(だいけんじゃ)メルヘン·グースが召喚(しょうかん)した救世主(きゅうせいしゅ)だったからだろうか。


それともビクニの真摯(しんし)な言葉が、貴族たちの(むね)()ったのか。


だが、俺がそう思っていたのも(つか)()、貴族の中の一人が口を開いた。


では、内戦(ないせん)仕掛(しか)けてきた亜人たちの問題(もんだい)はどうする?


この国の(ほう)()らせば死刑(しけい)になるのだぞ。


そんな者たちと仲良く手を(つな)いで(おど)るなど、狂気(きょうき)沙汰(さた)でしかないと。


その言葉で(いきおい)いづいた貴族たちは、次々(つぎつぎ)にビクニへ言葉をぶつけた。


過激(かげき)な亜人たちの集団(しゅうだん)は、日に日に()えているのではないか? から始まり。


こないだ愚者(ぐしゃ)大地(だいち)から来た亜人たちは、自分たちの家族(かぞく)をこの国に()ぶつもりだ。


その中にもっと過激な連中(れんちゅう)(まぎ)()んでいるかもしれない、と話し出した。


「すべての亜人たちが過激な者というわけではないでしょう」


その状況(じょうきょう)を見たルバートが口を(はさ)んだ。


それが逆効果(ぎゃくこうか)だったのかはわからないが、貴族たちの言葉はさらに過熱(かねつ)していく。


そして、そこから(はげ)しい舌戦(ぜっせん)が始まった。


貴族たちの怒涛(どとう)の言葉にルバートは(おだや)やかに返してはいたが、最初(さいしょ)(くら)べると少し怒気(どき)を感じさせる話し方になってしまっている。


まあ当然だろう。


ここまでよくそれを感じさせずに話せていたものだ。


さらに貴族たちの言葉が激しくなる中で、俺は何も言わなくなっていたビクニのほうを見た。


何度(なんど)も言うが、別に心配しているわけではない。


ちょっと気になっただけだ。


そして、その表情(ひょうじょう)を見るに、ビクニの(やつ)は落ち着いた様子で、貴族たちの言葉に(みみ)(かたむ)けていた。

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