表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/215

第九十九話 相談

ビクニの話を一通(ひととお)り聞いたルバートは、コクコクと(うなづ)いていると突然立ち上がって部屋の(とびら)を開けた。


そこには、紅茶(こうちゃ)とティ―セット、そして()菓子(がし)などが、車輪(しゃりん)の付きの(だい)の上に用意(ようい)されてあった。


その台車を部屋の中に入れ、俺たちの(ぶん)までカップに紅茶(こうちゃ)(そそ)ぎ始める。


ビクニの(やつ)は、その宮廷(きゅうてい)似合(にあ)うとても豪華(ごうか)なカップや、色とりどりの焼き菓子に目を(うば)われていたが、俺には違和感(いわかん)あった。


それは、ティ―セットや焼き菓子に(たい)してではなく、ルバートにだ。


この男は貴族(きぞく)――。


しかもその(けん)(うで)は、愚者(ぐしゃ)大地(だいち)(のぞ)けば最強(さいきょう)名高(なだか)いと言われているというのに、俺たち程度(ていど)(きゃく)(みずか)ら紅茶を入れている。


そんなことはメイドやら召使(めしつか)いにでもやらせればいい。


それなのにこの男は……。


けして俺が知っている貴族の立ち居振(いふ)()いではない。


いや、むしろ“らしからぬ”態度(たいど)だ。


「お菓子もいいけれど、それよりも(ふね)は?」


ビクニはまだルバートから食べていいとも言われていないのに、目の前に()かれた焼き菓子を頬張(ほほお)りながらそう言った。


口の中いっぱいに()()まれた焼き菓子のせいで、頬が中から押され、まるでリスのようになってしまっている。


相変(あいか)わらず下品(げひん)な女だ。


それに、あの一見(いっけん)して(つつ)ましそうな人見知(ひとみし)りとは思えないほどの(あつ)かましさまで(そな)えていやがる。


この暗黒(あんこく)女は食べ物のことになると、自分を(おさ)えられない(のろ)いにでもかけられているのだろうか。


「食べながら話すなよ、みっともないな」


俺がそう言うと、今頃(いまごろ)顔を赤くしたビクニ。


そんなに()ずかしいなら最初(さいしょ)から焼き菓子に手を出さなければよいものを、この女は……。


(まった)く、本当(ほんとう)(こま)った奴だ……。


そんなビクニの姿(すがた)を見たググも(きゅう)にマネをし始め、口の中いっぱいに焼き菓子を詰め込んで()いた。


サイズ(てき)にググの小さな体はリスと大差(たいさ)がないので、まるで本物(ほんもの)のリスのようだった。


ビクニはマネされたのが(いや)だったようで、ググを(つか)まえて止めさせようとした。


だが、ググは頬を(ふく)らませたまま、いくらビクニが追いかけても部屋(じゅう)を飛び(まわ)って()げていく。


その光景(こうけい)を見たルバートは、そんなビクニたちを止めることなく、ただ(おだ)やかに微笑(ほほえ)んでいた。


個人(こじん)的に貴族やキザな人間というのは、礼儀作法(れいぎさほう)にうるさいイメージがあった。


だがやはりというべきか、ルバートはビクニやググのマナーの(わる)さを気にも()めていないようだ。


そして今は、そんなビクニたちが微笑(ほほえ)ましいのか、椅子(いす)(すわ)ってもまだ楽しそうにしていて紅茶へ口をつけていた。


「話はわかったよ。だが、今すぐというわけにはいかないな」


ルバートがそういうと、ビクニとググは動きを止め、彼に()()っていく。


「どうして?」と、(たず)ねるつもりなのだろうが、この海の国マリン·クルーシブルに着いたばかりのときに、内戦(ないせん)(ひど)くてどの船も就航(しゅっこう)(むずか)しいと、聞いていたのをもう(わす)れたのか。


(あん)(じょう)そう訊ねたビクニに、ルバートがこの国の内情(ないじょう)不安定(ふあんてい)さを(つた)えた。


「やっぱりそこなんだね……」


どうやらその言い方からして、ビクニは理解(りかい)していながら()いたようだった。


わかっていて訊ねたというのに(かた)を落としてガッカリするビクニ。


ググもそんなビクニの肩に()ったまま(うつむ)いて、(よわよわ)々しく鳴いた。


「ビクニ……。そこで相談(そうだん)なんだが。午後(ごご)会議(かいぎ)に君たちも出ないか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ