勇者が去って
前回までのあらすじ あがると真っ赤になっちゃうの!
「ただいま帰りました、姫様」
「うむ、今日もごくろうじゃったのセバス」
「今日も留守中のおかわりはありませんでしたか?」
「いや、今日は大イベントがあったぞ、勇者襲来じゃ!」
「なんと!お怪我はありませんでしたか?
・・・屋敷内では目立った戦闘の跡は見受けられませんでした。お召し物も変わった様子はございません。またご冗談ですかな?それにしても今回の冗談はいつもと違ってひねりがごぜいませんが・・・」
「ひねる必要はない。本当のことじゃからな」
「つまり勇者は何もせず帰ったと。うーむ、宣戦布告でもしに来たのでしょうか?」
「いや当初は我と戦う気満々じゃったがの。何とか魔王の現状を説明し、我を倒す意義がないことを理解してもらった。ついでに勇者自身に魔王国を作るよう勧めておいたわ」
「さすがは姫様。相手を無気力にさせることにかけてはずば抜けておりますね。しかも相手に仕事を押し付ける。その技能をもっと他の事に振り分けていただきたいものでしたが・・・」
「さりげなく我を責めるのはよせ。ともかくこれからは勇者を前面にだして新な魔王国建設に乗り出すぞ。我が国はその同盟国として後押しするのじゃ!」
「これまで何度も申し上げましたがもう一度だけ言いますぞ。我が国を拡大して魔族統一に乗り出す気はございませんか?」
「何度も言っておるようにその気がない。我では力不足じゃ。」
「姫様はやればできる子なのです!昼寝の時間を1時間減らし、修行にあてるだけでも勇者を圧倒する力と魔法を手に入れるのは容易いはずなのです!もう一度お考え直しください!」
「我は昼寝の時間もおやつの量も減らす気が毛頭ない。諦めるのじゃ」
「もし先代様がおられたら何とおっしゃっていたでしょうか・・・。いや何も言いませぬな。あの甘やかしがあるからこの姫様が生まれたのでしょうから」
「だからさりげなく我を責めるのはやめい。そんなことよりセバスにはやることがたくさんあるじゃろ」
「そうですな。ひとまず諦めてできることを進めましょう。ところで姫様、勇者はどのような人物でしたかな?」
「得体の知れない男じゃった。会話することはできたがあやつの本性は全くつかめておらん。一つだけわかるのはあやつの視線は我の美脚と胸にくぎ付けだったことじゃな」
「年端もいかぬ、胸もまだ成長していない、ガリガリぺったんこなおこちゃまな姫様に邪な視線を向けるとはなんたる外道!なんとけしからん!そんな男は倒してしまうべきです!」
「セバスよ。だからさりげなく我を傷つけるのはやめい!ともかく勇者については何も掴んでいないということじゃ」
「姫様にしてそこまで言わしめるほどの切れ者だとしますと、・・・ここに耳を残している可能性はございませぬか?」
「その線はあるな、だがそれでも構わぬ。我は勇者に対して隠し事はせぬ。敵対することも絶対にない」
「なるほどそこまで本気とは。私も腹をくくる覚悟が必要でございますね」
「うむ、頼んだぞ、セバスよ」
「その前に一つだけお願いがございます」
「なんじゃ?」
「これを機会に私への呼び方を『セバス』ではなく本名のセラフィムへと戻していただけないでしょうか?」
「執事の名前は『セバス』と相場が決まっておる。変えられん」
「ちなみに私は執事ではございません。宰相でございます」
「この小さい国で執事も宰相もかわらんじゃろ。その件も何度も言ったはずじゃ」
「諦めきれないのでございます。ともあれ今は火急の用事ができましたのでこのお話しはまた後日」
「火急に掛けた訳ではないが、その用事をすます前に明子さんを呼んでまいれ。ついに仕事じゃとな」
「かしこまりました。やっとこれで大飯ぐらいのフェニックスに仕事をさせられますな。こき使いましょう」