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誤解から生まれる愛もある?

前回のあらすじ カツオのタタキはネギ塩も結構イケるよ!

平野の真ん中でのバーベキュー大会(食材は魚のみ)も落ち着いたころ、日はすでに落ち、あたりは星明りのみとなっていた。月は出ていないものの、見上げれば空いっぱいのきらめく星、野獣に襲われるなんて心配をしていないゲドにとっては十分な明るさであった。

あれはオリオン座だろうか?いやここは地球じゃなかった。同じ星座があるわけもないか。しかも俺は星座に詳しくなかった。ここが地球だとしてもオリオン座さえ分からないかもしれない。

しかも星空なんてお姉ちゃんを口説くための手段くらいにしか考えてなかったから、夜景の見える人気(ひとけ)のない場所はネットで詳しく調べていたものの、見上げる星空については全くの無関心だったことを思い出す。「あの頃は必死だったなぁ」、若き日の邪心を思い出して物思いにふけっていた。


(あら、シブい横顔ね。割合カッコイイじゃない)


邪心と欲望の醜い思い出にふけるゲドではあったが、その奥底を覗き見ることのできない乙女、フェニックス女子の明子さんにはロマンチックな夜景補正も手伝い、ゲドの横顔を過大に評価してしまっていた。鳥目でよく見えなかったことも評価アップの要因としてあげられよう。


「ねぇ、あなたはこれから先、何かやりたいことはあるの?」


明子さんはまだゲドが魔王を目指すのかも、平和を志すのかも答えを聞けていない。勇者として召喚されたのならば、どうしても魔物討伐、魔王討伐の英雄願望を持ってしまうことは避けられないのではとも思っていた。この世界へ召喚された際に手に入れたはずの膨大な力をただの武力として浪費してしまうとしても、人ならばそれも当然だと。だって人間だもの。


「まだそんな先のことは考えてないな(考えるが面倒だし)。今はただ思いついたところへ(エルフの里へ)突き進むことだけだ。そこで何が起こるかなんてわからない(パンツ一丁の変質者として迫害されるかもしれないし)。でも信念(欲望)に向かって突き進んでみようと思ってる。みんな(俺とエルフまたはエロフ)が仲良く(キャッキャウフフ)できる世の中にできればいいな」


カッコで示したゲドの本心を窺うことができていない純真な明子さんは、ここで痛恨の誤解をしてしまう。


(あら、打算もなく信念を貫こうとしているのかしら。純真ね。いいじゃない)


純真なのは明子さんのほうで、ゲドのほうは欲にまみれていた。知識もあり、頭の回転も優れている明子さんではあったが、前世では大学を卒業後も学問の道を進んでいたこともあり社会に揉まれることなく育っていた。「世の中にはくだらない考えや欲にまみれた汚物野郎もいっぱいいるんだ。てめえら、たたっきってやる!」みたいな経験を経ることなく大人になれたのは幸せなのかもしれない。しかし残念なことにその幸せな経験はここでは悪いほうに働いた。


(勇者として召喚されても、静ちゃんみたいに何の罪もない魔王様がいると分かって苦悩しているのね。そうよ、静ちゃんと比べれば領主のほうがよっぽど邪悪だものね!倒すべき相手を考えて迷っているのね)


明子さんはこの時点で完全にゲドの性格を見誤っていた。せめて星空の元でなければもうちょっとマシな結果になったかもしれない。でももうこの時点で手遅れだった。


「俺、この先のことは決まってないけど、でも(繁殖用として)フェニックスの卵を(商売用に)育ててみるのもいいかな、なんて思ったんだ。ヒナを育てて(調理器具役をさせて)料理を教えてあげたりさ。そしたら(売り払って金持ちになって)幸せになれるんじゃないかな、ってね」


ドキッ!明子さんは突然の言葉に冷静さを失ってしまった。そして道を誤ることになる。


(な、何で突然私にプロポースするの!やだ、もう!〈私とあなたの〉卵を育てるなんて、もしかして育メンをアピールしてるの?二人で子供を育てようだなんて・・・。子供を挟んで二人で料理を教えてあげるなんて、確かに幸せの一場面よね。あ、いいかも。いや、まだ会って間もないのよ。いきなりそんなことを言われても困る!でも私ったら前世でもプロポーズされたことがなかったし憧れていたのよね。ダメダメ、流されちゃダメ!よく考えてから返事しなくちゃ!)


明子さんはゾーンに入り考えた。この間0.1秒。もともと頭のいい子なのでゾーンに入らなくても0.2秒もあれば同じくらいの考えは思いついただろうが。


「ちょ、ちょっと待って!そんなのいきなり言われても・・・。考える時間を頂戴!」


「そうだよな。また考えなしに思ったことを言っちゃった、ゴメン。卵が欲しい(売って欲しい)なんて失礼だったよね。(有精卵じゃなきゃ意味がないとか)いろいろ条件とか状況とかあるものね。ちゃんと(買取相場とか)考えてからまた話をしよう。今のは聞かなかったことにしておいて」


「あ、でも(プロポースされたことは)ちょっと嬉しかったかも。まずはお互いに分かりあってから考えましょ。私も(お付き合いすることは)ちゃんと考えるから」


「ありがとう。あっ、流れ星だ」


「あっ、私も見えた(鳥目だけど)。キレイ」



なんとなく話は収まり、二人は無言で夜空を見上げる。多大なる誤解はこれから熟成し、味を変え、匂いを振りまく。いいほうに進めば熟成。悪いほうに進めば腐敗。一人と一羽の恋物語へと進むのか、養鶏場経営へと進むのか、乱闘騒ぎとなるのか、まだ分からない。薄暗闇と静けさの中、夢見が悪いのだろう時折聞こえるオオカミちゃんのうなされ声だけが二人の思考をくすぐっていた。




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