明子のクッキング(主に焼き)
前回のあらすじ 鳥レバーもタレのほうがおいしいと思います
「ねぇ、カツオを焼くのはいいんだけどさ、丸焼きってどうかと思うの。3枚におろさないと中まで火が通らないんじゃないのかしら?」
収納魔法でカツオを取り出したゲド。カツオの口から木の枝を刺しただけでそのまま火にかけようとしていところ、明子さんに呆れたような目で注意されてしまった。ゲドのほうは注意されたことなど全く気にせず、「鳥も表情で感情を表せるんだなぁ」とフェニックスの表情筋の発達に感心していた。初めて鳥と意思疎通できたことで発見することはいろいろあるようだ。
「しょうがないわね。がんばって遠赤外線を多めに出して、中まで火を通してみるわ。疲れるから嫌なんだけど今回だけ特別に焼いてあげるわ。本当に今回だけよ!」
(さすが火の鳥。炎の質を自在に変えられるようだ。タタキみたいに表面だけ高温で焼くこともできるのかな?3枚におろせるようになったら試してもらうようお願いしなくちゃ。思ったより便利でお得な鳥だな。こりゃ卵を産んでもらって増やしたいな。そうすれば食育も進むし、料理革命が起こるな)
ゲドは将来の火の鳥養鶏場?の経営と火の鳥料理教室の夢を見た。
「え?あなた包丁ももってないの?剣もナイフさえ持ってないの?すごいわね。石器時代の人より道具面で劣っている人ってある意味貴重よ。今どきのゴブリンでさえ鉄器を持ってるんじゃない?」
「あらま。あなたゴブリンと生活してたの?ふんふん、そのゴブリンって貝とブドウしか食べないのね。だからといってあなたまで鉄器や調理器具を持たない理由はないわよね。私はおいしい魚料理が食べたいからあなたに包丁を持ってもらうわよ、いいわね!」
なんだかこの鳥、変なことを言い始めた。ここでお食事を済ませたらお帰り遊ばされるのではなかったのかな?もしかして俺につきまとってレッツ・クッキングなおつもりなのかな?まぁ魚はいっぱいあるから食べさせるのは構わないし、火種はあったほうが俺も助かる。俺の火魔法って相変わらず調整が効かないし。
「そうだ、料理する前に俺の一張羅を脱ぐかな。汚れたら替えがないし」
テレビカメラの撮影を警戒してスーツを着ていたが、どうやらドッキリの線はかなり薄いようだ。いつものパンツルック(ボクサーパンツ姿)に戻ってリラックスしようと服を脱ぎ始めた。
「キャッ、何やってるの、あんた!こんな公衆の面前で裸になったらお巡りさんに捕まるわよ!」
「いや、公衆も何も俺の前にはオオカミちゃんと鳥しかいないし。それにさっきまで俺はこの格好だったぞ?見なかったか?」
「そんなの知らないわよ!なんで平地のど真ん中をパンツ一丁の男がオオカミと走ってるのよ、そんなのおかしいでしょ?それと私はただの鳥じゃないわ。フェニックス女子よ!女の子の目の前で脱ぎ始めるなんて失礼にもほどがあるわ!早く服を着なさい!」
「鳥への見栄えを気にしてもなぁ・・・。それに俺はスーツ以外は下着しかもってないぞ?」
「はぁ、あなたって領主に相当なネグレクトを受けていたのね。それにしてもズボンの一つももってないとはね。・・・わかった、許す。もしスーツを汚したり破いたりしたら、この世界では二度と手に入らないかもしれないしね。でもせめて腰布とかないのかしら・・・」
(ふぅ、オシャレ女子を気取る鳥にも困ったものだ。それに分かってない、こんな平地の真ん中だからこパンツ姿はいいんだぞ?!解放感あふれるし。それに横モレには注意してるから急な動きでも『こんにちわ』しない自信もある。文句を言われる筋合いはなんだぞ!)
と思ったものの口には出さない。元の地球にいたころだったら決してこんな格好にならないだろうという自覚もあったからだ。異世界に来て前とは比べ物にならないほど開放的になっているのであろう。この召喚でゲドはいろんな意味で生まれ変わったのだ(主にエロとか服装とか性格とか)。いいきっかけができて良かったなぁとさえ思っていた。
「そうこうしているうちに焼けてきたわよ。いただきまーす!
うんうん、火加減は最高だったみたい。良い感じの焼き加減よ。外は皮がパリパリで肉は生に近いし。しょうゆとは言わなくてもポン酢は欲しかったわねぇ。でもおいしいわ、はむはむ」
「じゃあ俺も食べよう。ほら、貸して。おお、うまい!本当に焼き加減がうまいな。久しぶりの焼き魚、感動だ!」
「あ、ちょっと、そこは私が口を付けたところじゃないの!か、間接キスになっちゃったじゃない・・・。も、もう。・・・ち、違うわよ!、は、恥ずかしがってなんかいないんだからね!私がそんなの意識するはずないじゃないの。いきなりだったからビックリしただけなんだから!」
(なんで急にツンデレテンプレになるんだよ、ウゼえ、鳥のクセに)
話は料理、ファッション、恋愛もの?と、カオスな展開を見せていく。まだまだ建設的な話に進みそうもないし、前話から寝ているオオカミちゃんもまだ起きる気配はない。この後カツオを2本食べきり、オオカミちゃん用にもカツオを焼いていると日が落ちてきた。
「お腹もいっぱいで、日も落ちてきたから今日はここらで野宿しようかな。おまえはどうするんだ?」
「うーん、私も鳥目で暗い中を飛ぶのは危ないから、今日はここに泊まらせてもらおうかしら。ところでゲドは他にも魚はもってるのでしょう?もっと焼いて食べましょう!」
かくして屋外バーベキューパーティーはまだまだ続くのであった。




