相互理解から始めよう
前回のあらすじ イワシの煮干しより、今はトビウオのほうがトレンドだよね?
「あなた、勇者でしょ?」
炎に包まれた焼き鳥がしゃべった!やっぱり内蔵を取ってから焼かなかったからゾンビになっちゃったんだ!なんまいだぶなんまいだぶ・・・
ゲドは的ハズレな感想を抱きながら目の前の鳥に向かって3度の柏手を打ち、一礼ののち、土を指で一つまみ、お焼香のまねごとをしながら「焼香は一回だっけ?三回だっけ?前の人の真似ですましてたから覚えてないなぁ」と、これまた的外れな悩みを増やしていた。スーツを着ていたのも告別式気分を盛り上げしまったのかもしれない。
「ねぇ、もしかしたら誤解してるみたいだから言っておくけど、私は神様でもゾンビでもないのよ?ただの火の鳥、フェニックスなの。炎は自前なのよ」
前の世界では火の鳥は漫画の神様が題材にするほど希少価値があったのだが、この世界ではありふれているのだろうか?本物だろうか?テレビスタッフが『大成功!』のプラカードを持ってくる可能性はないのだろうか?ゲドの頭の中ではかつてない速さで思考が駆け巡った。この瞬間、彼はゾーンに入っていたのだがそんなことは誰にとってもどうでも良かった。なんなら忘れてもらってかまわない。
「もう、疑り深いのね。でもその慎重さは悪くないわよ。なにせこの世界は魔法の世界。元の地球の理論と同じで考えないほうが長生きできるわ」
焼き鳥が何やら喋っている。でも残念ながらゲドは疑っていた訳ではない。「昔見た寝起きドッキリは本当の寝起きだったのかしら?ヤラセの可能性もあるよね。今初めて気付いた」と、ゾーンの無駄遣いをしているところであった。
「お前、熱くないの?」
ゾーンが時間切れを果たし、頭の回転が通常営業に戻ったところで最初の感想がそれだった。心の葛藤を伺い知ることの出来ない第三者からすると普通の人の意見に思えたことだろう。でも普通の人だったらお焼香の真似はしていない。
「熱くないわよ。だってこれが普通ですもの!。私は燃える女、フェニックス女子の明子よ!よろしくね!」
なんか本物みたいだなぁ。不思議生物だなぁ。そういえば肉が焼けてる臭いはしなかった。焼けていれば香ばしい匂いがしているはずだ。あの焼き鳥の匂いがいいんだよな。俺はタレより塩派だな。年取ったからかなぁ。アッサリしてるのがおいしいんだよね!でもツクネはタレがいいよね!
再度ゾーンに入るゲド。これだけ頻繁に入るということは実は緊張しているからかも知れない。緊張とは無縁のゲドであってもフェニックスを前に危機感が生まれたのかもしれない。
「よろしく。俺は今ゲドって呼ばれています。前の名前は捨てました。ところで何で俺が勇者だと思ったのですか?」
「そうそう、それが本題よ!スーツを着ているからすぐに分かったわ!あなた静ちゃんのところにもう一度来るはずじゃなかったの?もう、探しちゃったじゃないの。見つからなくって大変だったのよ?」
「静ちゃんって誰?もしかして俺って気付かない間に誰かに告白とかしてたのか?もしその子がOKくれるんだったらどの娘のことを言ってるのか教えて!そうじゃないなら教えないで!クレーム処理は受け付けてないんだ」
「・・・あなた、何を言ってるの?静ちゃんって魔王のことよ。もしかして魔王に告白とかしたの?いやーねー、もう」
「魔王?あぁあの巻きツノの足が細くって胸がトゥルンって感じで牛シッポのカワイイ娘か。俺は都条例を遵守する男!ロリは愛でても手は出さない、固い男だ!後3年は手は出さねーぜ!」
「召喚されると脳に影響でも受けるのかしら?もしこの調子で日本にいれば警察に通報されるレベルよね。話が前に進まないわ。ちなみにシッポは生えてないわよ。
ねぇ魔王があなたに『新しい魔王になって世界を平和にしてほしい』って言ったの覚えてる?」
「覚えてない!」
「あーあーー・・・、やっぱりね。だから戻って来なかったのね。ところで魔王はあなたにお土産のクッキーを渡したのは覚えているかしら?」
「それは覚えている!美味しかったー!俺は甘党じゃないんだけど、クッキーの甘さとお茶の苦さが調度良くて飽きずに食べられたよ」
「じゅる。あのクッキーおいしいんだよねー。香りもいいしねー。私もだいすきー!」
「俺なんかあのクッキーを食べてからこれまで貝とブドウとちょっとの魚しか食べてないからね。料理されているだけでも今になれば感動ものだよ」
「そうなの?ひどい食生活を送っていたのね。でもちゃんと食べられただけまだマシなのよ?!私なんかさっきお腹が空いて、のたれ死にしそうになっちゃったんだから」
「なるほど。さっきのは食べられるのを待っていたんじゃなくて、食べるのを待っていたのか。焼き鳥を巻き餌に獲物を待つなんてなかなかの知恵者だな」
「誰が巻き餌なのよ!別に何かを引き寄せようとしていたわけじゃなく、ただ単に行き倒れていただけよ。手持ちのサツマイモをいつのまにか落としちゃったのよ」
「サツマイモを落としただけで死にかけるなんて、フェニックスってリスキーな生き物だね。よくそれで生き抜いてきたね」
「そうなの、代謝が良過ぎてお腹がすいて大変なの。でも最悪の場合、すきっ腹で死んじゃってもたぶん大丈夫!また生まれ変わるはず、たぶん」
「死に対する危機感がないなー。生物として欠陥を感じるな。でも不死をもつものとしてはそれくらいのほうがバランスが保てるのかなぁ」
「話がそれてるわよ!魔王のところにいく話はどうするの!」
「それよりちょっとお腹がすいた。火種もあることだしご飯にしない?俺、魚はいっぱい持ってるんだ」
「火種って私のこと?失礼ね!でも私も小腹が空いたかな。ねぇねぇ何を持ってるの?」
「いろいろ持ってるぞ!そうだなぁ今のオススメはカツオかな?こっちの世界に来てからの初カツオだ。炙って食べようぜ!」
「キャー楽しみ!醤油があれば最高だったのにね」
「まぁまぁそう言うなよ。新鮮だから十分美味しいって」
「そうね。私が最高の火加減を演出してあげるから楽しみにしていなさい!」
こうして二人?の話は脱線を続けながら少しずつ進んでいく。もしかしたら全く進まない可能性もあるが。ちなみにオオカミちゃんはこれまでの疲労で倒れるように寝てしまっていた。




