二人旅の始まり
「ゴブリンはムチムチ系だったから今度はスレンダー系がいいよなぁ。スレンダーと言えばやっぱエルフだよな、またはエロフ。どこにいるかなー、楽しみだなー、ぐふふふ」
ゴブリンの長老に別れの挨拶をし、いよいよヒロイン探しの旅に出発だ!その前に旅のオヤツ代わりのブドウを拾いに行く。
「旅のオヤツの定番はバナナだけどしょうがない。あー、でも冷凍ミカンならぬ冷凍ブドウならちょっと旅のオヤツっぽいかな?氷魔法ってどうやるんだろう?旅の途中で研究してみようかな」
召喚されてからこれまでに、誰からも一度も魔法は教わってこなかった。しかし「召喚魔法があるくらいだから、勇者の俺が魔法を使えないはずがない!」との思い込みと努力となんだかわからない偶然により、数々の魔法を会得してきたゲド。火の魔法が使えるんだから氷の魔法も頑張れば使えるはずだとの確信を持っていた。
「魔法といえば他にはどんな魔法があるのかなぁ。テレポートとか召喚とか透明化とかかな。あ、透明化いいね!透明と言えばやっぱりのぞき!これは使える。
あ、でも俺の信念の「都条例は守りましょう!」を完全に破ってるよな。うーーん、やむを得ない、これは諦めるか。そうだよな、見たいけど見えないから燃えるし萌えるんだ。うん、想像こそエロの醍醐味!透明化はちょっと据え置きだね」
パンツ姿で独り言をつぶやき危ない妄想で盛り上がる、この男は誰が見ても勇者とは思えない。だったらいっそのこと透明化していたほうが通報されない分だけいいのではないか?そんな素敵な助言をしてくれるお友達も今はいない。今いるのは目の前のブドウ畑でシッポを丸め、手足を震えさせているオオカミが一頭だけだ。
「おーーい、オオカミちゃん!おまたせー!」
約束を破るとどんなことをされるのか分からず怖いので待機してはいたが、できれば来てもらいたくなかった。オオカミは遠い目をしながら物思いにふける。
「今日はブドウを採ったら旅に出ようと思ってるんだ。オオカミちゃんもついてくる?」
あ、足が痒い、とちょうど下を向いて足をなめようとしたその瞬間にゲドの質問がきてしまった。「行きたくない!」と首を横に振ろうとするそのちょっと前、ちょうど頭を上げたその時をゲドは見逃さなかった。
「お、質問にかぶり気味に首を縦に振ってくれるとは。なんだ乗り気じゃん?仲間に挨拶は?」
しまった!行きたくないのに!遅ればせながらも必死に首を横に振ったその時をゲドは見逃さなかった。
「お、挨拶は必要だと思ったのにそれもいらないの?じゃあブドウを採ったら早速行こうか」
不幸な偶然と相変わらずのゲドの一方的な思い込みによって二人旅は確定してしまう。ここから長く続く勇者と魔狼の旅が始まった。
「あ、ちょっと、細かく振動させると感じちゃう!」
恐怖に震えるオオカミの背中に乗って、いらないことを喋るゲドの存在を少しでも忘れたくて、オオカミは全速力で森を駆け抜けていった。行く先も方向も分からないまま・・・。




