勇者召喚禁止条約
前回のあらすじ お茶はどくだみ茶味
それは我の祖父の時代じゃった。そのころの我が魔王国キュラットは王の元に四天王が集い、かなり広い範囲まで勢力を広げておった。その構成は魔族を中心に、意思の通じる魔物や亜人、一部人間も加わり、多種多様な人種でなされておった。ただし魔王国とはいっても政治体制は発達しておらんかったようで、官僚組織どころか、税制、軍事といった国の体裁を整えるまでにはいたらんかったようじゃ。もちろん国政調査もなされておらんかったから人口もわからん。王国とは名ばかりの寄り合い組織じゃの。それでもなんとか名ばかりながらもまとまれたのは魔王が持つ圧倒的な戦闘力のおかげのようじゃった。魔王国内での争いは抑制されておった。
そのころの人間族はいくつかの王国を作り、戦争に明け暮れておった。しかしある時に膠着状態に陥った。各国の軍事力が均衡し、動くに動けなくなったんじゃ。三すくみみたいなもんじゃろうな。そのことで各国は重大な問題を抱えることになった。それまで成長の原動力を、国内の不満を、国の債務の言い訳を戦争に向けていたのにいきなりそれができなくなった。国民の不満が王族の政治不満へ向かうのは当然じゃな。各行首脳はかなり焦ったようじゃ。そこで現状の体制を維持することを画策し、首脳同士による会談が行われた。その結果、人類共通の敵を作り出し不満のガス抜きをすることにを決めた。それが魔王国討伐じゃな。
しかし討伐しようにも金もない。軍隊を動かすと隣国からの侵攻が不安。そこでなされたのが第一回勇者召喚じゃ。各国首脳にとっては召喚は必ずしも成功しなくてもよかったんじゃ。ただ国民の不満のガス抜きさえできればいいのじゃから。じゃがこれが成功してしまった。偶然にも成功してしまったんじゃな。そしてこれが世界に広がる不幸の始まりじゃった。
勇者は強かった。瞬く間に魔王国の幹部を倒し、わが祖父の魔王までも倒した。魔王国はあっけなく崩壊した。まとまりをなくした魔王国の各部族は勇者の武力を恐れ各地へ散った。そこからはドミノ倒しのようなものじゃな。力のある魔族や亜人が未開の地へ逃げる。それまでそこへ住んでいた魔物や動物が追い出される。魔物達がたどり着く先はより弱い人間族の領地じゃ。人間族の国は辺境から荒らされ続け、その不満は首都へ向けられ、勢いのままいくつかの国が滅んだ。
この危機を乗り越えた諸国はこれを教訓とし、国による勇者召喚を禁止する協定を結んだ。「勇者召喚禁止条約」と呼ばれるものじゃ。




