いい日旅立ち
前回のあらすじ 王城勤務は割合ホワイトな環境なようです
「俺、ちょっと旅にでてくるよ」
いつものように貝を食べ終えた夕暮れ時、ミポリンとイチャイチャしてニヤケ顔で帰ってきたゴブバチョフを洞窟のなかで迎え、できる限りのマジメ顔で俺はそう切り出した。
「相変わらず突然だな。旅ってどこに行くんだ?」
「行先は分からない。敢えて言うなら俺の運命が行先を決めてくれたその先へ、さ」
「それってもしかして格好良く言えたとか思ってない?全然格好良くないし、質問にも答えてないし、キメ顔がウザイぞ」
30分前から顔の表情とか仕草とか指の角度とか腰のひねり方とかいろいろ練習したこの俺様の努力をゴブバチョフの野郎は一言で切って捨てやがった。殺意が沸いた。
「行先は決めてないけど多分それなりのところへ行けるはずだ。だって俺、主人公補正が効いてるはずだし」
「はん!奴隷から逃げ延びたお前が主人公な訳がないだろうが。本当に主人公ならこの村の女達だってもう少しいい扱いをするはずじゃないか?お前の扱いなんてひどいもんじゃないか、「エロ教師ゲドに女の子を預けて大丈夫かしら?トラウマを植え付けられてくるんじゃないかしら」って近所の主婦たちがいまだに噂してるんだぞ?どっちかと言えば主人公より犯罪者予備軍に近いんじゃないか?」
「誰だ!そんな失礼なことをいうご婦人は。確かに保護者の皆さまにちょっとだけイヤラシイ目つきをした覚えはあるが、そこまでのことはしてないぞ!熟女のお尻に思いを馳せたり、歩くときに揺れるおっぱいを『ケシカラン』と睨んだくらいで。本当はいろいろ思ったことがあるのに口に出さないように努力してるんだ。それに生徒には極力イヤラシイ目を向けないようにがんばってきた。ここまでの俺の努力を無にされるのはガマンできなない!」
「お前、本気で言ってるのか?それとも俺のツッコミ待ちか?面倒だから早く本題に移れよ」
「俺を突き放すなよ、冷たい奴だな。ちなみに誰が噂してたんだ?もうその女相手にはガマンせず思う存分イヤラシイ目で見なくちゃな。ガマンし続けるのは勿体ない」
「俺がチクったみたいになるから誰かは言わないぞ。それとイヤラシイ目はやめろ。旦那に殴られるぞ」
「そうか、それは正論だ。既婚者じゃなくて未婚者を眺めるほうがいいってことだな。お前もたまにはいいこと言うじゃないか」
「・・・もういいよ、疲れた。で、旅に出るって話はどうなった?」
「そうだよ。俺、旅にでるんだよ。行先は決めてないけど」
「ちっ、振り出しに戻っただけか。で、なんで出て行くんだ?この村に何か不満でもあるのか?」
「不満か。不満もないことはない。俺が教えてる生徒たちについてだ」
「いつもお前は生徒の出来がいいって褒めてたじゃないかよ。アレは嘘だったのか?」
「違う。俺の生徒は優秀だ。優秀すぎたんだ」
「ん?訳がわからん」
「俺の生徒は優秀で勤勉だ。それが過ぎて俺が教えられることがなくなってきたんだ。このままでは俺の教師としてのプライドが保てない。俺にだってまだ教えられることはあるはずだと思うけど、思い浮かばないんだよ!数学と物理以外に何を教えたらいいのか、何か絶対に他にも教えられることがあるはずなんだ。俺はそんな薄っぺらい人間じゃない!それを思い出すためにも時間が欲しいんだ!」
「ただ時間が欲しいだけなら正直に言って別のことやってればいいじゃん。料理がどうとか前に言ってたじゃないか。アレはどうなったんだよ?」
「それも考えてはいた。料理を教えていれば時間が稼げそうだって。でも俺がこの村にいると生徒が今やっていることを質問をしにくるんだ。今の課題は時間と天文学なんだけど、星と太陽の動きから一日と一年の長さを決めるように課題を与えてある。でもどうやったらいいかとか俺に聞かれてもわからない。もう生徒に自由研究だって丸投げしてあるんだ。俺はすでに口だけ番長になるつつあるんだ。もう俺の心は折れかかったいるんだ!」
「お前思ったよりメンタルが弱いんだな。意外だったよ。じゃあその現実逃避が終わったらここに帰ってくるのか?」
「戻ってこようとは思っている。でも旅にはもう一つ目的がある」
「そっちが本題か。で何だ?」
「ヒロイン探しだ」
「は?」
「俺の人生という名の物語にまだヒロインが不足しているんだよ!ほら、コミカライズするにもテレビアニメ化するにもキャラクターグッツを売り出すにもカワイイ女の子がいなくちゃ始まらないじゃない?
俺ってTシャツにパンツ姿だからもしかしたら挿絵にもモザイク掛かっちゃうかもしれないし。それにもしプレゼント用に俺のぬいぐるみを作るってのも絵的に犯罪者っぽいし。俺に代わるちょっとエロくてかわいいスタイル抜群の子を探してこなくちゃ!
あ、胸は別におっきくなくてもいいんだよ?何よりバランスが大事だよね。足も細いのもいいけど、メリハリが効いて足首だけキュッてのもそそるよね。肩幅もちょっと尖ってるのも美人系でいいし、撫で肩も捨てがたい。首の長さも・・・」
「うるせーー!黙れ。じゃあお前はこの村の女じゃ物足らないから他の村に女漁りに行きたいってのが本音なんだな?」
「それは違うぞ。この村にも魅力的な女の子はいっぱいいる。でも俺は敢えて言おう。どんなにゴブリンがエロくても俺のヒロイン探しに終わりはないんだ!ゴブリンのおっぱいは確かに見ていて飽きない。でも、だからこそ他の種族の女の子も見てみたい。まだお会いしていないエロフも見たいし、ケモミミもホルスタイン系生シッポも見てみたい。
俺には夢がある。ケモミミや肌の色で差別されることなく、純粋にそのスタイルによってエロを判断する社会を作ることを。
俺には夢がある。どんなにイヤラシイ目つきで見つめていても、それは愛情と温かく見守ってもらい、決して当局に通報されない寛容な社会になることを。
俺には夢が・・・」
「うるせーーー!!脱線はもう十分だ。ちゃんと戻ってくるつもりがあるなら俺は何も言わない。長老にも連絡していけば他のやつも納得するはずだ。そんなに長く留守にはしないんだろ?」
「うん、手持ちに魚があるからそれを食べきる前には戻ってくる予定だ。ヒロインは今回の旅で絶対に見つけるというほど固い決意もないしな」
「わかった。あとあのオオカミもなんとかしろよ?俺たちじゃ手に負えないぞ」
「そうだな。あのオオカミちゃんも一頭連れていこうかな。背中に乗れそうだし。うん、そうしよう」
「じゃあ気を付けていってこい。お前の部屋は空けておいてやる」
翌日の昼、ゲドは長老に挨拶をし、オオカミと旅にでる。しかしゴブバチョフはいくつか思い違いをしていた。ゲドの収納魔法で保存している魚の量は一人で食べるには数十年分あることを。ゲドは約束を簡単に忘れてしまうことを。いつゲドがこの村に帰ってくるのか、本当に帰ってくるのかはもう誰にもわからない。




