聞き込み調査 延長戦
前回のあらすじ 大根は塩漬けを軽く洗って炒めたんだよ。酢と生姜を入れてあっさり漬けるのもおいしいさね。で旦那が昨日何ていったと思う?それがさ・・・(おばちゃん 談)
今日は午後から井戸端会議に参加できる。昨日の勢いで喋るおばさんが数人集まることを想像すると足のすくむ思いではあるが、大事な情報源であることには間違いない。嫌がる足を強引に動かし井戸へ向かう。
しかし重大なミスを犯したことに気が付いた。「井戸ってどこだ?」肝心の場所を聞き逃していた。
私は自分で思っていた以上におばさんの話の勢いに消耗していたようだ。普段ではありえないミスをしていた。予想以上の困難な調査であることを肝に銘じながら、まずは井戸の場所を聞くべく第一村人を探す。
農村の朝は早い。特に苦労もせず村人を見つける。畑作業をしている男性のようだ。ただしここからはかなり遠い。近寄るのに数分はかかるのではないか?遠いので年齢は分かりずらいが動きが素早いので働き盛りだろう。おばさんでないことにまずはホッとした。しかし見える範囲に他の人はいない。ここはとんでもない寒村なのだろう。
「おはようございます。私は隣町で商人をしているものです。実は人探しと井戸探しをしているのですが、知っていたら教えていただけないでしょうか?」
「あぁ、あんたも人探ししてるのかい。たぶんあいつのことだろう。ありゃ最悪のヤツだったぞ、あんたあの男の知り合いかい?野放しにしちゃいけないよ、大変なことになるぞ。あぁ、だから探してるのか。うんうんあんたも苦労するな」
昨日のおばさんほどではないがやはりこの男も人の話を聞かず、勝手に話を進めている。もしかしたらこの地域特有の傾向なのだろうか?
「ありゃちょっと前のことだったな。俺が畑仕事をしようと思って家から向かっていたら、川辺でボーと突っ立ってる男がいたんだよ。珍しく知らないヤツだったから思わず声を掛けちまった。「何してんだ?」ってさ。そしたらヤツ、いきなりこう言ったんだよ、「あの洗濯してる子、胸の薄さと足の細さが抜群にいいよね!」ってさ。今でもあの驚きを忘れないよ。最初の一言目がそれなんだからさ」
この男が見たのは召喚された勇者なのだろうか?もし勇者だとしたら相当の危険人物だ。今頃魔王の元に討伐に向かっているのではなく、人目のつかない所で婦女暴行を働いているかもしれない。そこから繋がる数々の問題点に思いを巡らせ頭を抱える。
「だから俺も思わず言ってやったんだよ、「おっぱいは大きいほうがいいに決まってんだろ、何言ってやがんだ!」ってさ。そしたらもう売り言葉に買い言葉よ。
ヤツは「実用と観賞用は分けて考えるべきだ、胸の大きさはそれぞれに良い点がある。だから胸は大きくても小さくてもどちらもいいもんなんだ。要はバランスの問題だ」なんて言いやがる。
分かったような口をききやがるから俺もついムキになっちまってさ、「おっぱいは大きいのが最強。異論は認めない」ってさ」
この男は一体何を言っているのだろう?私はしばらく思考を停止してしまった。
「結局その場では決着がつかなくて、俺も畑仕事に向かったんだよ。そしたら翌朝もそこにヤツがいて、それから毎日言い合いだよ。本当にヤツは強情なんだ。
それでひと月ほど言い合いしていたのに突然ヤツは来なくなりやがった。まだどっちの言い分が正しいかハッキリしてないんだぜ?一緒に飲もうと思って楽しみに持ってきた酒もその日から無駄になっちまった。おっと無駄と言っても捨てる訳じゃないけどな。ちゃんと飲むぜ、もったいない。つまみは洗濯してるおねえちゃん達の姿だ。言い合いしながら飲む酒、ありゃうまい酒だったなぁ」
どうやらこの男は勇者と思しき男と仲がよくなったようだ。エロ話で親睦を深める、私にはわからないがこういう方法もあるのだとは知っている。ただし朝からやるべきことではない。
「用事があってこれなくなるならそりゃしょうがねぇ。でもそれならそうと一言いってくれりゃいいじゃねぇか。ヤツにもし会ったらちゃんと別れの義理を果たさねぇとダメだって言ってくれよ。俺は怒ってるんだ。それと他に・・・
俺もちょっとお前の言い分が理解できたって言っておいてくれないか?俺、あの洗濯してた子とちょっといい感じなんだ。おっぱいは大きくないけど気立ての良い子でさ。今ならヤツともっとおいしい酒が飲めそうなんだ。こっちに寄る機会があったら顔だせってさ」
この男からは多少の情報が得られた。
・勇者と思しき男はエロ好き
・酒が飲めるので成人
・ひと月ほど滞在していたが今は行方不明
・領主の館にこもらず自由な行動を許されていた
そして
・勇者を探している組織はもしかしたら多数に上るのではないか
この男からはついでに井戸の場所も聞き出せた。有意義な情報収集であった。




