聞き込み調査 前編
前回のあらすじ サメのおかげで餓死せずにすみました(オオカミA 談)
私は調査員。名は名乗れない。王城からの極秘の依頼を受けているからだ。避けられぬ不測の事態が起きた場合、私は他国からの間者を名乗り、処刑を受けるまたは自害することとなっている。私のキャリアの中でも稀な極秘の依頼だ。
調査を進めて行く上での仮の身元は、隣町で家出をした弟を探す商人と設定している。ただ緊急の依頼であったため設定を詰め切れていない。
準備不足を懸念してか、上司から今回の調査を行うに当たって助言を受けている。「君を派遣するために必要な情報を万全に用意することができなかった。疑われる可能性が高いかもしれない。しかし身元を疑われたとしても絶対に逃げられる万能のセリフを教えてやろう。『な、中の人なんていないんだからね!』こう言えば大体何とかなる」と。
緊張をとくための冗談だろうか?真面目な顔で語りかける上司にどう反応したらいいか分からず、「了解です」と答えてしまった。私の出世が遅れているのはこういった時にうまい切り替えしができないからだろう。今度上司に進められたラノベなる本を読んで勉強せねば。
おっと話がズレてしまった。調査に移ろう。
調査地はAと呼ぶこととする。ここは他国とも魔王国とも隣接する干渉地に近い領土だ。そのためろくな開拓もされず、農地は少ない。大部分が放牧地、林で占められている。事前情報としてこの地の領主の館は全焼しているとのことだ。まずそこから調査を開始する。
館があった場所の調査を始めた。見事なまでに焼け落ちている。通常の火事でここまで燃えるものだろうか?柱の一本を残さず焼け落ちている。この館では可燃物を大量に取り扱っていたのではないかと推測される。火元と思われるもっとも消失が激しい場所を念入りに調べた。
火元と思われるその場所は館の中央。おそらく領主の執務室があった近辺だと思われる。そこには溶けたビンが多数落ちている。何が入っていたのだろうか?高さはあまりなく、ビンの口は広い。これは中身を混ぜやすいように作られている。となると沈澱性のある液体が入っていたのだろう。ビンを溶かすほどの高熱を発するが揮発性はあまり高くなかったのだろう。現時点では成分の確定はできない。ビンの一部を持ち帰り、専門の機関に精査を委ねよう。
焼け跡を一通り見たが被害者とおぼしき骨は見当たらなかった。火事から逃げ延びたのだろうか?しかしこれだけの大火、瞬く間に燃え広がったはずだ。被害者がでないとは考えにくい。となると住人の少ない時間帯であったか、もしくは計画的な火災であったか?断定はできない。なるべく多くの可能性を残しつつ調査を続けよう。
燃えカスにいくつか特徴がある。まず金属の装飾品と見られる鉄塊が多い。この辺りは産業が発展していない。境界地なのだから当たり前だが。これだけの量の装飾を集めるほど財政は豊かではなかったはずだ。何物かの援助があったことはこれで確定した。
先ほど見たビンは薬品だと仮定されるが、薬品を扱うのに必要な実験道具の焼けカスはほとんど見当たらない。ということはこの地で合成されたのではなく、他の地から完成品が運ばれたということだ。その理由と目的はなんだ?調査継続が必要だ。
ここまで調査を進めてきた中で最も重要な報告がある。それは私の前に相当数の人数がここに立ち入っていたということだ。これだけの焼失、火事場泥棒は早々に盗難を諦めているだろう。となると誰が、何のために?考えるまでもない、私のような調査員が入っていたということだ。ご丁寧にマーカーも残されている。これは後々に何者かが立ち入ったか判断するためだろう。もちろんそれを踏むような迂闊なことはしていないつもりだが万が一がある。物取りに見せかけた偽装工作をしておこう。
領主の元館の調査を終えた私は次に聞き込み調査に移る。




