ゲドの悩み
前回のあらすじ キャサリン、昨日は筋トレするって言ってたじゃないの!イメトレだけじゃ駄目なのよ!
「はぁ・・・」
ゲドは悩んでいた。最初の頃はこうなるなんて想像もしなかった。もっと軽い気持ちでいられた。笑顔で毎日をすごしていた。でももう今は遠い思い出・・・。あの頃に帰りたい。昔は良かった。
ゲドは無意識でつぶやいていた、
「どうしてゴブリンがこんなに賢くなっちゃったんだろう・・・」
異世界からの知識チートで余裕ヒャッハー!だと思ってたのにあのゴブリンの野郎ども俺の教えたことを一回で覚えやがる。しかも復習も家でやってくる。それどころか生徒全員で検討会まで開きやがる。いくらヒマだからってそんなに勉強しなくたっていいんじゃないの?
その検討会のせいで俺の教えた内容の少し先を推論してきやがる。俺も意地になって予定していた授業のそのちょっと先を教える。やつらはまた勉強してくる・・・。そんなことやってれば授業の進みが早いはずだよ。俺の記憶に残る数学はもう絞りつくしちまった。まだ1か月も経ってないのに・・・。早えよ、早すぎだよ!あぁ参考書をこの世界に持ち込めていればもうちょっと悩みも少なかったのに。でもどうせ持ち込めるなら違う本が欲しいな。おっとどんな本だなんてみなまで言わせるなよ。えへへへ、旦那も好きですなぁ。
いかんいかん、話を戻そう。とうとう奴らは俺も教えていないことをやり始めた。地図作り。ピタゴラスの定理を教えたら測量に応用し始めやがった、畜生!こんな感じで数学は俺の教えられる限界にきたので次は物理。地図を作るにも物理を教えるのにも、最も基本的かつ重大な問題がある。単位はどうするんだ?
こっちの人族の単位はよくわからない。それを知るために町までいくのもメンドクセー。このゴブリン村独特の単位を作っちゃえばいいか。でもその基準が熱や経年で変化しやすいとよくない。ここは知恵袋の長老に何かいいのがあるか聞くしかないか。
「長老、暑くても寒くても時間が経っても長さが変わらないものなーーーんだ?」
「なんじゃ?いきなり。なぞなぞは苦手なんじゃ。でもあえて答えよう。答えは・・・」
「ゲド兄、それならいいものがあるよ。この洞窟の奥にあるんだよ」
「お、キャサリンのご推薦か。じゃあ見せてもらおうかな」
「あの、答えは・・・」
「どんなものをオススメしてくれるのかな?先生は結構注文がうるさいぞ?」
「じゃ早速行こう。ワタシについて来れるかしら?きゃははは、うふふふ」
「なんだとー、こいつ、捕まえちゃうぞー、がはははぐふふふ」
「せめて答えを聞いてから行ってくれーーー」
「この洞窟って本当に広いよな。キャサリンは迷うことはないのか?」
「小さいころは迷ったよ。でも今は目印の意味が分かったからね。もう大丈夫」
「目印?そんなものどこにあるんだよ」
「ほら、よく見て。天井に矢印があるでしょ?それと反対に向かえば外に出れるんだよ」
「天井?どこだ?」
天井には確かに矢印があった。そしてなぜか矢印の横に何か絵が描いてある。あれって・・・
「なぁ、キャサリン。あの矢印の横に書いてある絵って・・・」
「うん、あれは剣の絵だよ。今から向かう先には剣があるんだ。しかも岩に剣が刺さってるんだよ。不思議だよねー。いままでいろんな人が抜こうとしたけど、なぜか誰もその剣を引き抜けないんだよ。みんなの予想ではすっごく長い剣ですごく深くまで刺さってるか、剣の先が太くなってるから抜けないんじゃないかって言われてるんだ」
岩に刺さる剣、抜けない、勇者登場。まさかね、まさかそんなお約束ないよね。あったら駄作だよね。それにおいらがゴブリン村に来たのはあくまで貝が目当て。戦う道具は求めてないよ?事前情報もなかったよ?でも多分そういうことなんだろうな、チッ。
「ゲド兄、これこれ」
「ノーーーーーー!!!」
キャサリンの案内のとおり、そこに剣は刺さっていた。まぁそれはいい。事前に聞いていたからね。でもその剣の横に石碑があり、メッセージが書いてある。
(おいでませ勇者さま。あなたの魔王退治に活力を与えるオススメのこのひと振り、どうぞ抜いちゃって、抜いちゃって、抜いちゃってーー!心配ないさーーーー、持って行っても大丈夫だよ、しばらくしたら生えるから。気に入ってもらえた?もうあなたも好きね、なんならもう一本いっとく?)
「この岩に何か書いてあるんだけど、ゲド兄に教わった文字と違うから読めないんだ。でもキレイな字だから大事なことが書いてあるんだろうなぁってみんなで言ってたの。いつか読めるようになるといいなぁ」
書いてあるのは日本語だからね。子供の夢を奪わないためにも読まないほうがいいと思う。
「キャサリン、これは俺も知らない文字だな。多分古代の文字で今は失われた文明なんだと思うよ。それとこれは剣に見えるけどちょっと違うみたい。何かの罠じゃないかな?力自慢が調子にのって引っ張ると天井が崩落するとか。これは危険だから長さを計ったら封印しちゃおう」
「そうなの?じゃあこれまでみんなが引っ張ってたのは結構危険だったんだね。危ない、危ない。でもこれが基準でいいの?なら計って早く出て行こう」
そしてゴブリン村の長さの基準が定まった。1ゴンメートルは約1メートル。
剣を抜いてもいいことがなさそうなので土魔法で入り口をきっちり封印。「この先基準長あり。劣化を防ぐため立ち入り禁止」ゴブリンでも読める文字で石碑も造りました。




