狼たちの復讐劇(未遂)
前回のあらすじ ゴブリンの住む浜辺では積乱雲は発生しません
ガウ?(おい、ここでいいのか?)
クゥ(はい、このブドウのあたりで間違いありません。俺のマーキングも残っていますので)
昨日屈辱的なお腹ナデナデをされた狼はまったりと気絶を堪能したあと仲間の集団に戻り、勇敢な有志(次の犠牲者)となってくれる若手の仲間を探していた。
このまま俺一人だけが犠牲者のままじゃアイツの圧力に押しつぶされちまう、誰かとこの痛みを分け合いたい!あぁ、俺は今、真の仲間を探し求めている。誰か、誰かいないか?
クオーーーン!(おい、なんだそのシッポは?!次期の俺の後釜を狙うヤツがそんな情けない姿をするんじゃねぇ!)
キュウン・・・(あ、ボス。やべぇまずい方に見つかっちまった)
早くいつも通りのトガって、スカして、ケンカ上等、イカれたあん畜生の俺に戻らなければ!でも一度染みついてしまったこの足の震え。負け犬根性からまだ抜け切れていない。早くオオカミに戻りたーい。
でもボスは俺のすべてをお見通しだった。何者かに負けて帰ってきたことも、復讐をしに行く仲間(次の犠牲者)を求めていることも、漏らしちゃったオシッコのことも(臭ったらしい)。
※以下鳴き声省略(No Sound Sorry)
(てめぇ、負けて帰ってきやがったな?)
(・・・すんません、ボス)
(ふっ、そんなにビクビクするな。叱りやしねぇさ。心配するな。ほれっシッポを戻せ)
別にボスにびびってシッポを丸めてるわけじゃないけど・・・、ボスの面子まで潰すわけにはいかねぇな。
(一度や二度負けたことなんか気にすんな。大事なのは気持ちを折られないことだ。今のお前みたいに仲間を集めて復讐しに行く、その気概があれば問題ねぇさ)
完全に気持ちが折れちゃってるけど・・・。仲間は集めてるけど復讐なんてする気ゼロっすけど・・・。
(てめぇは俺様が目をかけた後釜候補だ。特別だ、今回は俺も付いていってやろう)
やばい、またビビッてオシッコもらしてるところをボスに見られたら俺、グループから外されちゃうかも。
(ボスが直々においでくださるなんていけません。相手を調子づかせちまうだけです)
(大丈夫だ、もし調子づくようなら俺が黙らせてやる。気にするな)
あぁ、俺にはもう反論する気力すらなくなってしまった・・・。ボスには申し訳ないが俺には考える気力も残ってないようだ。
(よろしくお願いします、やっつけちゃってください)
ボス自ら動くということはオオカミ集団全員が動くということだ。結局本来は来ちゃいけないような子供もメスも年寄までもブドウの木の元にやってきた。一抹の不安を覚えながらも頭数が増えたことでちょっと他人事のような気分が芽生え、どん底まで落ちた気分も少し戻ってきた。
グルゥ(何か来やがった)
「おーーい、オオカミちゃーーん!お待たせーーー。おお、いっぱい連れてきたなーー、うれしいぞーー!」
やばい、あいつの顔を見ると震えが戻ってくる。オシッコ我慢!我慢だ俺!
グルルルゥ(敵はあいつだな?安心しろ、俺がやっつけてやる)
ワオーーーーーーン!!!
「お、元気がいいな?元気があれば何でもできるもんな。いいことだ。そうか、ゴハンを催促してるんだな?よしよしそんなお腹が空いてるなら早速用意してやるぞ」
ワオオオーーン!(先手必勝だ!風魔法 ウインドカッター!)
「ほら、いっぱい食べな、サメ食いねぇ!サメないうちにね。おっといけねぇやもう冷めてらぁ、あはははは!」
風の刃が放たれる直前、ゲドは収納魔法で保管していたサメを取り出していた。オオカミのボスはゲドよりはるかに大きく倍ほどの背丈があり、頭からシッポまでもかなり長かった。だがゲドが取り出したサメはそのオオカミより更に長かった。それほどの巨体を前に置かれてたため、放たれた風の刃は鋭くサメを切り刻んだがその巨体を突き抜けることはできず、ゲドが傷一つつくことはなかった。
「ん?どうしてサメを切り刻んでるんだ?丸かじりより小さくしたほうが食べやすいのかな?もう見かけによらずお上品だなぁ。よしわかった、俺が切り刻んでやろう」
頭数が多いのでサメをもう1匹追加。包丁も武器もないので手刀で切る。「えい」と掛け声をかけながら手を振ると一瞬でサメはオオカミ一口大に切り分けられる。
「はい、切ったよー。でも内臓も骨も一緒に切っちゃったからドロドロでゴリゴリだけどいいよね?骨くらいガブッとかみ切れるさ、だってオオカミだもん」
ガ、ガウ?(俺の魔法で切り裂けない魚を簡単に切り刻みやがった。強さを見せつけてやがるのか?)
「切り分けてから食べるとは君達はなかなか食通と見たぞ?ふふふ、君達はゴブリン達とは違って料理に興味があると見た!俺が魚を炙るおいしさを教えてあげよう。これぞ食育だ、グルメなオオカミ誕生だな」
切り刻まれてサメの原型をとどめていない肉塊に向かってゲドは魔法をふるう「火魔法 炙り」。
結果はある意味予想通り、炙るだけのはずの炎はなぜかオオカミの数倍も高く高く立ち上る。それを見たゲドは「うわぁキャンプファイアー特大版になっちゃったなぁ」とのんきの眺め、ボスの後ろに控える年寄もメスも血気盛んだったオスさえもすでにオシッコを漏らしている。子供は気絶している。
「あぁ、ごめんな、火がちょっとだけ強かったみたい。食べるところがなくなっちゃった。でも大丈夫。まだまだいっぱい捕ってきたから。火もすぐ消えるから大丈夫だよ。だからオシッコで消そうとしなくても大丈夫だよ。食べるのを待たせすぎちゃったかな、チビッコは飽きて寝ちゃったね。ごめん、ごめん、すぐに用意するからね」
そしてサメをもう一度取り出し、手刀で切り刻み、炙る。今度はちょっと加減が効いたようで骨だけは何とか残った。
「・・・骨かじる?」
ボスに向かって骨を向けるゲド。対するボスはもちろん逃げずにゲドを迎える。目も背けない。頭の中では超高速で思考が駆け巡る。
(子供のころに埋めたイノシシの骨はちゃんと掘り出したっけ?食べ逃してたらもったいないなぁ)
つらい現実から逃げ出し、思い出の世界へ浸っていた。どっちにしろシッポが股に挟まり、四肢も震え、身体は逃げ出すことはできない。せめて意識と魂だけは逃げ出そうとしていた。魂が逃げてしまったらもう終わりのような気もするが。
「今日はたまたま火加減がうまくいかなかったみたい。次回までには練習して最高の火加減にしておくからね。今日は生で我慢してね。かわりにいっぱい置いていくから。じゃあまた明日!」
追加でサメを3匹置いて、ゲドは浜辺へと駆け出す。これから魔法の特訓だ!明日こそは燃やし尽くさないように。いけ、ゲド!がんばれ、ゲド!明日は君のものだ!!




