浜辺での目撃者
前回のあらすじ 王城の人ってまじめね
「おいゲド、ちょっと来てくれ」
「なんだ?今日はオオカミちゃんと戯れようと思ったんだけど」
「急遽会議をやることになったんだ。お前も連れて来てくれって長老から話があったんだよ」
「ゴブリン会議に人族が出ていいのか?」
「今更だろ?それに今や学校の先生もやってるんだし関係者じゃないか。いいから行くぞ」
「はいよー、女の子も会議にでてるといいなぁ」
「皆集まったな。それでは会議を始める。まず最初に言っておくぞ。この件はまだ会議に出ていない者には言ってはならん。内密に頼むぞ。
数日前になる、浜辺で貝を食べていた者から沖合に大きなヒレとヤリのような物をみたとの報告があった。見間違いもあるかとは思ったが念のためワシの親戚が交代で沖を監視をすることにした。昨日も朝から甥っ子が夫婦で監視しておった。
昼ごろまでは何もなかったそうだが、午後になり突然雨が降ってきた。皆も知っていると思うが昨日はここらには雨は降っていなかったはずじゃ。しかし浜辺では降っていた。それからしばらくして大きな雷がなり、二人は気を失ったそうだ。なに、心配はいらない、二人とも身体に大事はなかったそうじゃ。それからしばらくして無事に目が覚め、まわりを確認したところ、沖合にある三角岩がなくなっていた。どうやらそこへ落雷したらしい。
問題はこの後じゃ、岩があったところから更に沖合にヤリとヒレが今度ははっきりと見えたそうじゃ。見張りに立っていた二人は考えた。この状況から考えるに雨も落雷もそのヤリの主が魔法を使って起こしたのではないか、と。
ヤリの主が何者なのかは分からない。それにまだはっきりとそのヤリの主が敵対してきたとは言えない。本当にヤリの主が魔法を使ったとも言えない。ただ今後の対応については考えておかねばならないと思う。皆の意見を聞かせて欲しい」
「ヤリってのは何だ?ヤリが刺さった魚が泳いでいたってのか?」「沖にでた漁師がこっちを見ていたってんじゃねぇか?」「漁師だったら浜辺に上がってくるだろう、ずっと海にいるってのもおかしいし」「浜にいて気絶するような強い落雷で海にいるもんが何もないっておかしくないか?」
会議に参加している皆はざわつくばかリではっきり意見を述べるものはいなかった。何者がいるのか、何が起こっているのか、何をすればいいのか、全く分からないままだから意見がまとまりようもない。
「どうだゲド、外から来たものとして今回のことはどう思う?」
額の冷や汗を気付かれないように拭って必死に頭を働かせていると長老と目が合ってしまった。
「あまり頭を使いすぎるな!テキトーで大丈夫!」自分自身に暗示を掛けてからその場しのぎのウソを紡ぐ。
「実は俺はその場をたまたま見ていたんだ」
「何?」
「そう、その日は晴れた日だった。俺は貝採りを終えて浜から離れた所でうたた寝していたんだ。でも感じたんだ。何か変だなー、何か変だなー、と。ちょうどその時背筋を凍らせるような冷たい風が吹いた。あれ、おかしいぞ?でも何がおかしいのかわからない。寒いなー、寒いなー、そんな声を思わずもらしたその時はっと上に目を向けた。いつの間にか空は暗くなって小雨が降っている。さっきまであんなに晴れていたのに。まずいなー、まずいなー、直感がそう叫んだ時「ドカドカドカー!!!」と雷が沖合の三角岩に落ちた。稲光が目をくらませ、ほんのちょっと目を閉じたその後にはもう小雨も雲をなくなり、まるでさっきまで見ていた天候がうそのように思えた。あたりを見回して俺は思った。これは・・・
・・・積乱雲だな。このあたりの浜辺では分からないが、よその浜辺ではよくあることだ。晴れた日は空と地上の気温差が大きくなり、風が急速にかきまぜられ、雨と強い風、雷が鳴るもんなんだよ。このあたりでは分からないけど、海沿いでは常識、そう本当によくあることなんだ。
雷の後にいっぱい魚が浮いていたから、そのヤリの主は魚を浜側に追い込んでいたんじゃないかな?
たぶんその浮いていた魚を捕って満足して帰っていったんじゃないかな、と思うよ。珍しくないって、こんなこと、なんくるないさー、大丈夫、大丈夫。こんなこと気にしてちゃハゲちゃうよー」
「そうか?なんだゲドはその場にいたのか。見ていた人がいるならそうなんだろう。皆、騒がせて悪かったな。よくあることなら大丈夫みたいだ。この辺りでは珍しかったから驚いたよ。
そういうことだから浜辺に行くときは気を付けてな。じゃあ解散!」
皆ほっとしたような表情で分かれていく。「ビックリしたな」「こんなこともあるんだな」「ヤリって一度みてみたいよな」それぞれが思い思いの感想を述べながら家路につく。どうやら皆も解決したと納得したようだ。ヤリの持ち主が誰なのかになぜか話題が及んでいないようだが。
ゴブリンのみなさん、騙され上手すぎますよ!もうちょっと疑い深くなりましょうね!そう思うゲドでした。




