狼ちゃんとおしっこと
前回のあらすじ ゴブリンは時々黒いオリーブをブドウと間違えて食べたりします
今日はいい天気だ。気分がいい。こんな気分がいいのは昨日大きめのイノシシが取れたおかげでもあるな。何度思い出してもありゃ会心の一撃だったぜ。回り込んで死角から一気に喉笛にカジりつく。あれで致命傷を与えられたぜ。最初の攻撃の時、イノシシの前足をかいくぐった瞬間に、「今日のオレ、イケてる!」って思ったんだよな。あれがゾーンってヤツだと思うね。ボスが前に言っていた意味が分かったよ。時間がゆっくり流れるあの瞬間、ゾクッときたね。最近では一番の手柄だったし、これで俺も次期ボス候補になれたんじゃないか?へへへ。
いやあ肉もおいしかったね。手柄を認められて一番おいしい内臓を腹いっぱい食べさせてもらった。また思い出しちまった。いつも食べてるモモ肉より柔かくておいしかったなぁ、ジュル。
今日はブドウを食べようと思ってちょっと遠出してきたんだ。たまには栄養のバランスを考えないとな。今どきのオオカミは肉ばっかり食べてちゃダメだ。年寄どもは分かってねぇ。健康を維持してこそベストパフォーマンスを発揮できるってもんだ。根性論だけじゃ生きてけねぇんだよ。本当にわかってねぇんだ。俺の世代になったら部下に果物も定期的に食べさせる。ブドウを食べるとお通じも良くなって毛並みも良くなるってもんだ。ボスたち幹部連中にも俺の毛並みで納得させるしかねぇな。俺のやるこたぁ全く責任重大だぜ。まぁ次期ボス候補だからな。しゃあねぇな。
ここらのブドウの木には時々ゴブリンどもが群がっていやがるんだ。やつらは俺たちに怯えてるからな。何もしてきやがらねぇ、腰抜けどもだ。俺たちオオカミもゴブリンは襲わねぇ。あいつらの肉はくせぇって有名だからな。何を食ってりゃあんなに臭くなりやがるんだ?どうせ死肉でも漁ってやがるんだろう。ちゃんと新鮮な肉と果物を食べてりゃもっとましになるはずだ。まぁいい。あんな痩せこけてるヤツなんて食っても腹の足しにもなりゃしねぇ。無視だ無視。
お、今日もゴブリンどもがいやがるな。まぁ別にかまわねぇんだが。ブドウもいつも通りたくさん成ってやがる。うんうん、甘い。ここのブドウはハズレがねぇな。取りやすい高さにあるってのもいいよな。これがもっと俺たちのナワバリの近くにありゃあな。いっぺんにはそんなに食えねぇから毎日少しずつってのが理想なんだが。ん?まだゴブリンどもがいやがるな。逃げねぇのか?ふぅ、やつらも俺たちが襲わねぇと思って慣れちまったのかもな。だが俺たちは誇り高きオオカミだ。舐められたままじゃいられねぇ。それに俺は時期ボス候補だからな。へへ、ちょっとばかし脅かしてやろうか。
本当に襲う気はねぇからな。少しずつ近づいて吠えて脅かしてやればいいか。やつらがわきまえれば深追いはしねぇ。食べないものは狩らない。自然は大切にしねぇとな。遊び半分で命を狩っちゃいけねぇ。俺はなんたって大物だ。志ってもんがあらぁ。ん?まだ逃げねぇな?というか近づいて来やがる。こりゃ本気で脅してやらねぇとな。こんなマジマジと見たのは初めてだが、ゴブリンどもも結構肉がついてやがる。意外と食ったらイケるんじゃねぇか?でもまぁ威嚇だ。い、いか、威嚇・・・アレ?声がでねぇ。なんだ?足が震える。あのちょっとデカイやつ、もしかして見たことがあるかも・・・。ああああ、シッポがいつの間にか股の間に収まってやがる。ぬ、抜けない。足が震える。ヤツが俺に微笑みかけてやがる。
「よーし、よしよしよし、ほらこのブドウをあげよう、いい子だ」
いらねぇよ、それ。ブドウなんていくらでもなってやがる。だから俺に近づくな!というか逃げろ、俺!あぁ、足が震える・・・。あいつはあの時の男だ!俺たち若手が全員で噛みついたのに平然とおしっこしてたあの男だ!ちょっとシブキがかかって臭いがなかなかとれなかったんだよな。臭かった、まったく碌なものを食ってやがらねぇんだろうな。というか逃げろ俺!
「よーし、よしよしよし、頭をなでてやろう、おとなしくしてな。ん?おまえどっかで見たことあるな。もしかしてあの時の狼か?」
ヤバい!ばれた。あの時噛んだのを思い出したみたいだ!ああ、逃げたい・・・。なんでこんなに足が震えるんだ。腰も抜けたみたいだ。あ、も、漏らしちゃった。もうダメかも・・・。
「よーし、よしよしよし。ん?なんだお前、おしっこしてるのか?ああ、あの時の仕返しだな?あの時は軌道がズレてちょっとひっかけちゃったもんな。ごめんな。だからといって仕返しされてもなぁ。おしっこかけられて喜ぶ趣味はまだもってないんだわ。それ上級者だからな。俺なんてチェリーよチェリー。ノーマルで喜んでる初心者なんだよ。それと獣姦の趣味もないから。だから大丈夫、よーしよしよしよし」
だ、だめだ。意識が遠のいてこいつが何をいっているのか分からない。頭がおかしいってくらいしか分からない。お母さまごめんなさい。ぼくちゃん先に死んじゃうね。お母さまのお乳おいしかったです。いっぱい舐めてくれてありがとう。兄弟たちもいっぱい遊んでくれてありがとう。来世でも一緒にかけっこしようね。もうだめ。お腹みせちゃう。あぁもうどうにでもして!
「お、お腹なんかみせて愛いヤツよのう。撫ぜてしんぜよう。ほーら、ワシャワシャしちゃる」
あ、そこはダメ!あ、もう服従しちゃうんだから。でもそこまで。その先は勘弁して。そこ、そこは。もうちょっと上、そうそう。もうちょっと優しく。いいね、いいよ。うんうんなかなか。あ、声がでちゃう!
「なかなか素直じゃないか。オオカミってこんなに人に馴れるもんなんだね。可愛いもんだ。
よし、決めた。こいつを飼おう!いや、こいつだけじゃなく、群れを従えて警備係に雇おう。そうと決まれば餌付けだな。おい、オオカミ。明日はもっとおいしいご飯を持ってきてやるからまた来いよ。わかったか?お、頭を下げた。言葉がわかるのか?こりゃ楽しみだ。よーしいっぱいご飯を持ってくるからな。仲間を集めておけよ!」
明日も来なけりゃいけないのか、最悪だ。こりゃ仲間も道連れだな。きっとボスも連れてきてやる。そして俺の恐怖をみんなに分割してもらうんだ。




