勇者への扱いがひどい件
前回のあらすじ 魔王はぷりてぃー
「なぁ、お前は本当に魔王なのか?」
「いかにも魔王じゃ。おんしは魔王がどんな姿かもわからずに攻めてきたのか?もし我以外にも数人がこの部屋で立ち並んでいたらどうするつもりだったのだ、だれを倒したらいいのかわからないじゃないか、このバカもの勇者が」
「何人いたとしても同じだ。そしたら全員倒す!」
「この脳筋バカ勇者め!魔王が逃げることもあるではないか。そしたらどんな相手を追っていいかわからんじゃろ?それさえも考えないとは愚かじゃ、愚か過ぎるわ。勇者ではなくまさに愚者!
しかしまぁ、誰かおんしの向こう見ずなところを叱ってくれる人はいなかったのか?師匠とか仲間はおらんのか?」
「むむっ・・・。俺だってさ、頼んではみたんだよ?!『誰か助けてくれないのかな?』ってさ。けどさ、けども誰も師匠どころか仲間にもなってくれなかったんだ、しょうがないじゃないか。だから世間知らずなとこは認めるよ。そんな感じだったからこの世界に召喚されてから誰も俺に意見するヤツはいなかったし。だってさしょうがないじゃん?みんな『何とかなるよ、大丈夫!』とか『強ーい』とか『ふぁいとー(笑)』っていうだけで他人事だったんだよ。」
「・・・さみしいのぅ。しかしそんな状況でも魔王を倒しにくるとは。召喚者にいいように言いくるめられたのかのぅ。」
「まぁ使われてた自覚はあるけどね。でもな、俺がわからないことがあったり装備で不足したものがあると『私が何とかいたしますので大丈夫でございます』って領主の執事さんは優しく言ってくれたよ。
まぁ、そういう割には用意が雑で希望の通りには揃わなかったけどなぁ。俺としても仲間は欲しかったし、アドバイスもそうだし食べ物とか装備とかいろいろもっとほしかったのになぁ。」
「おんし、だまされ上手か?大丈夫か?まったく、勇者ともあろうものが適当に使われおってからに。」
「そういえば俺が勇者ってすんなり分かったみたいだけど。なんでそんなにすぐにわかったんだ?」
「ちょっと考えればわかることじゃろ、おんしの身なりを見れば。元の世界のスーツ姿のままやってきとるし。何より魔王たるもの勇者の気配は敏感に感じるもんじゃ。それは勇者であるおんしも同様じゃろ?
しかし着替えさえしとらんとはその執事のいい加減さが原因だったのか、納得したわい。」
「さすがに俺も領主の館を出る時に『装備とか武器とか支給してくれないんすか?』って聞いたよ!?でもさ、『勇者は最強だから素手で大丈夫です!鎧なんて動きを阻害するだけでジャマです!』っていい笑顔で言うからさ。ふっ、おれも騙されてるんじゃないかってうすうすは気付いてはいたんだ、ははは・・・」
「しかしのぅ、武器を持たせてもらえなかったとは、『お前はゴブリン以下か!』とツッコまれそうじゃの。なぁ、魔王って普通に考えればラスボスじゃろ?何もしてもらえなかったからといってここまで何も装備せずにくることに不安はなかったのか?」
「そうはいっても領主の館からここまで武器を持った魔物が一匹もいなかったから、倒して武器を奪うってこともできなかったんだよ。スライムなんて倒すと溶けちゃうしさ。手が汚れて臭くて困ったよ。」
「せめてこん棒くらい用意せいよ・・・」
「ん?考えてみれば、なんでお前は元の世界とかスーツとか知ってるんだ?お前何者だ?」
「だから魔王だといっておるだろうが。ふふっ、しかもじゃ!何を隠そう我は地球からきた転生者じゃよ。スーツぐらいわかるわ。おんしと違って召喚されたわけじゃないがな」
「なっ!同郷?まじっすか!あっちの世界から来たのって俺だけじゃなかったのか、信じていいの?」
「まぁ、疑うのも無理はない。ちなみに我だけじゃないぞ、転生者は我が把握しているだけでも他にも何人かいるぞ」
「・・・転生すると角が生えたり、『じゃの』口調になっちゃうの?」
「角は転生先の種族のせいじゃ。口調は生活環境上こうせざるをえなかったのじゃ。そのあたりは大人の事情じゃ、察せよ」
「まぁいろいろ思うところはあるけど。とりあえず話が通じる人で良かった。じゃ、戦おっか」