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夕焼け図書室  作者: 天之屋エニシ
3/6

 放課後、早速、三角さんから聞いた図書室の不思議について新谷さんにメールで報告する。間髪を入れずに返信がきた。「記念館の屋上に集合」。心の天秤が、右の皿には芳美先輩、左の皿には新谷さんが座って手招きをするものだから、かなり揺れ動く。

 少なくとも、部活をさぼったところで芳美先輩には怒られない。迷った末、ボクの脚は四階を素通りした。

 屋上に出たところで、さわりと陸風に撫でられた。遮るもののないコンクリートの平面に、まだ新谷さんの姿はない。

 ボクは妄想する。

「あれ、十六十くん早かったね。待った?」と、後ろからの声。ドキッとして振り向くと、はにかむように新谷さんが立っている。夕陽になるには間が有るから、彼女の頬が赤く見えるのは太陽のせいじゃない。もちろん、ボクが返す言葉は決まっている「ううん、今来たところ」

「知ってる」

「えっ?」

 背後の声がリアルすぎ。それもそのはず、驚いて振り返ると実物が立っていた。妄想から飛び出したかのように、学校の制服を全く違和感なく着こなす新谷さんだ。

「十六十くん。独り言が気持ち悪かったよ」

 彼女は薄目でぼそっと呟く。

「いつから居たんですか」

「今来たところ」

 しれっと皮肉られた。

「あの、その目、やめて貰えませんか――」

「はいはい」

 ボクの抗議には全く取り合わず、新谷さんは海の方角へ歩きだす。そっちには情報処理棟がある。囲いまで辿りついた彼女は、胸の高さまであるその上に、躊躇なく身を乗り出した。

「何やってんですか!」

 慌てて駆け寄る。

「もうちょっと下の方が良く見えるかな」

 言い訳とも、独り言ともとれる話し方だ。ボクもこわごわ、新谷さんを真似て目線をたどる。情報処理棟の壁に、大きなブルーシートが張られていた。二日前につけられた、原因不明のキズを覆う応急処置だ。

「玩具でしたっけ? 新谷さんや阿僧祇さんが使っている道具。あのキズも、そんなのを使ってつけたんでしょうか?」

「あぁ、そう言えば、あれの調査をしているときだっけ、十六十くんにパンツを盗撮されたの」

「盗撮なんかしてません」

 スマホを確認したでしょう。

「じゃあ、百歩譲って盗撮はしてなかったとして」

「見てもいません」

 残念なことに、『トリミング』で止めてたから断言できる。

「美脚は見たでしょ」

「見……。少しだけ」

「よっしゃぁ」

 ほら、そこ、勝ち誇らない。しかも、自分で美脚って言うかな?

「きっと、あれは学校の七不思議の一つになるよ」

 新谷さんは、「よっ」っと囲いを降りて、そのまま今度はそれに背をもたれた。陸風で翼のように広がった髪が、陽の光を浴びて金色に見える。

「この学校に、七つも不思議があるとは思えないんですけど」

 ボクも情報処理棟に背を向けた。けれど、背中はつけない。こんな時制服が汚れるのを気にしない人を、普段なら「大雑把」と感じる。なのに、新谷さんだと「無邪気」と受け入れてしまっていた。

「数はそんなに重要じゃないんだ。三つでもいいし、九つになってもいい。わたしの目的は、その中の当たりをみつけることだから」

「当たり?」

「一緒に探していれば、分かる時がくるよ。まずは一つ目。図書館の不思議について詳しくきかせて」

 忘れていた。それを報告するためにここへ来たんだった。


「――以上です」

 元々が長い話じゃないから、三角さんの体験談を伝えるのは、五分ほどで事足りた。

 風で髪がばらつかないように、両手を後頭部へもっていった姿勢のまま、新谷さんは空を見ている。

「うん、いいね」

「当たりですか?」

「それは調査しないとわからない。時間は……」

 新谷さんは、玄関で履く靴の左右を確かめるように、無造作にスマホを見た。

「時間も丁度いい。行こっか」

「どこへ?」

「決まってるでしょ。図書室だよ」

 彼女は、ボクの返事を待たずに歩きだす。

「場所は分かるんですか?」

「一回、行ったことがある」

 もう階段を降りようとする新谷さんのスカートがなびく。遅れてついていきながら、もっと強く吹けばいいのにと願わずにいられない。

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