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夕焼け図書室  作者: 天之屋エニシ
2/6

 次の日。学校の昼休み、焼きそばパンとあんバタパンを食べ終えたボクは、数少ない友達の一人、持田樹もちだ いつきの席に向かう。

「持田、ちょっといい?」

 彼は女子と、食後の会話を楽しんでいた。相手はクラスで女子の中心的な位置に君臨する、北川さんだ。

「あ、十六十。どうした」

 持田は、猫を散歩させている人を二度見するように振り向いた。男子同士ならいざ知らず、女子との間をボクが割って入ったのだから無理もない。

「この学校の七不思議を教えて欲しいんだけど。いくつか知らない? ほら、持田って学校の噂に詳しそうだから」

 まだそばにいる北川さんが気になって、ボクは右ポケットを探り、懐中時計を握る。

「えっ、七不思議って。季節外れじゃない」

 北川さんに応じられた。

「あ、えっと、その」

 情けないことに狼狽えてしまった。

「七不思議かぁ、この学校にあんのかな」

 持田頑張ってくれ、お前だけが頼みの綱だ。

「そう言えばこの間、三角みすみちゃんが珍しく不思議そうに困ってたよ」

 まさかの、北川さんによる救援だった。若干、あっちに行って欲しいと感じていたのだけれど、心の底から反省します。

 三角さんと云えば、入学式で新入生代表の挨拶に選ばれた才女だ。その明晰な頭脳を持ってすれば並大抵のことでは困った事態なんて起こり得ない、と、ボクは勝手に思っていた。

「三角ちゃーん、ちょっときてー」

 両手をポケットに突っ込んだまま、人気落ち目の歌手のコンサートポスターを眺めている。みたいに、女子グループの端っこにいた三角さんが、北川さんの呼び声でこちらにきた。

「何?」

 三角さんは背が高い。ボクなんかは、男子の中で身長が低い方なので敵わない。そして、イケメンだ。「イケメン」という言葉は、基本男性に対して使うものだと承知しているけれど、あえてそう云わせてもらおう。

「三角ちゃん、前に、図書室のことで困ってたよね。なんか、十六十くんが聞きたいらしいんだけど、教えてあげてよ」

 ボクを見る三角さんの目はまさに、興味のないコンサートポスターに載った歌手に対するそれだ。

「困ってたというより変なんだよな、あの図書室」

「どんな風に?」

 表情はともかく声の調子には、嫌がっている感じがなさそうだったので安心した。

「読みたかったアガサ・クリスティの『スリーピング・マーダー』を見つけたんだけれど、昼休みが終わる間際だったから、改めて借りようと放課後に行ったら無くなっていた。それも、アガサ・クリスティの本、全部。あと――」

「あと?」

「アルゴリズムのクイックソートについて調べようとしたら、プログラミングに関する本が一冊も無かった」

 一冊なら、見間違いだったり借りられていたりもするのだろう。けれど、数冊一気に無くなるのは変だ。それに、情報処理課がある学校で、プログラミング関連の本が一冊も無いのだっておかしい。

「だけど、次の日にはあっさり見つかったりもするんだよなぁ」

 右手を顎に持っていって悩む三角さん。格好いい。

「本が有るときと無いときの違いに心当たりは?」

「そう云えば、消えた本は修理で片付けているのかもと思って、司書の先生に尋ねようとしたら帰りの準備をしてた」

「五時近くってこと?」

 考えるポーズのまま、三角さんは頷く。

「逆に本が見つかったのは、放課後に諦めたのを、次の日改めて昼休みに探したときだった」

「時間帯が関係あるのかな」

 ボクは、両腕を組んだ。意識して三角さんと同じポーズになるのを避けてみた。

「もういいんじゃない。昼休み、終わりそうだし」

「だよな」

 北川さんと持田の言葉をきっかけに懐中時計を確認したら、あと五分ほどで五時間目だった。潮時かも。

「ありがとう三角さん。あと、北川さんと持田も」

 トイレに行っておきたかったから、三人に簡単なお礼をして、ボクは席とは逆の方向へと進む。

「部活にいったら、永田先輩にも聞いてみれば。あの人なら、七不思議のこと知ってるかもしれないよ」

 持田のアドバイスには同感だ。だけれどあの人の鋭い流し目を思い出すボクの肩は、ずんっと沈むのだった。

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