薬草を求めて
「あのぉ、ティナさん? どこまで行くの?」
「森の奥」
そんなのずっと前からわかっている。
どうしてこんな奥地まで来てるのか知りたいんだよ。
「どうして?」
「良いのが採れる……らしい」
らしいって言った! この子、らしいって言ったよ!
「えっと……大丈夫?」
「まかせて」
不安しかないよ。どこからくるの? その自信。
頼む人間違えたかな……。可愛い子とお近づきにとか考えてた自分を殴りたい。
だんだん日が傾いてきたが、ティナさんは進む。どこまでも。
「あった」
広く開けた場所にたどり着いた。
そこには辺り一面に毒草が広がっている。そう、薬草ではなく毒草なのだ。
「毒草……ですね」
「騙された」
誰に!? それ、俺の台詞だから!
「はぁ……日も暮れてきたし、今日は帰りましょう」
それにしても、ずいぶんと奥まで来てしまった。早く帰らなければ本当に暗くなってしまう。
「あれ?」
また、毒草の広場に行き着いた。
「……ティナさん?」
「迷った」
怪訝そうな顔でティナさんを見つめると、悪びれる様子もなく言い放つ。
ははは、この子は何を言ってるのだろう。訳がわからない。
「大丈夫。いつものこと」
現実逃避しようとした所に追い討ちをかけられる。
いつものことって。そんな子が案内しちゃダメだろ。
なんなんだこの子は。話し掛けても反応薄いし……もう、やだ。
「暗くなってきたから、野宿するしかないか……」
「仕方ない」
夜の森を抜けるのは危険が多すぎるため野宿することにする。
その原因になった子は、謝罪の言葉もないようだ。
「────!?」
気迫察知の範囲に物凄い勢いで何かが突っ込んできた。
次の瞬間、茂みの中から黒い塊が弾丸のように飛び出してくる。
一直線に向かってくる黒い塊を、真横に飛び込み前転の要領で間一髪のところで回避する。
ティナさんがこちらにトコトコと歩いてくる。どうやらティナさんも無事に避けれたみたいだ。
「ブラックボアか……。速いな」
ブラックボア。猪の魔獣であり、強靭な足腰からなる体当たりは岩をも砕くと言われている。
直線にしか走らないため避ける事はそう難しくはない。
しかしながら、倒すとなると別な話だ。強力な遠距離攻撃、又は卓越した近接での立ち回りが必須だろう。
正直、今の俺では荷が重そうだ。ティナはどうだろうか。
横目でチラッと確認する。
「美味しそう」
この子はどこまでもマイペースなようだ。危機感の欠片もない。
ブラックボアは前足で何度も地面を蹴り、駆け出す仕草をしている。
「どうします?」
「まかせて」
ティナの周りに水の塊が浮かび上がり、槍の形に変化していく。
しかし、何かを感じたのかブラックボアは、ティナに向かい突っ込んでくる。
「ティナさん! 来てる!」
「問題ない。ウォーターアロー」
気の抜けた声に反応して、水の槍が信じられない程の速さで発射され、こちらに猛然と向かって来ているブラックボアの額から尻へと一瞬で突き抜る。
勢いそのままに倒れ込み、ズザァーと俺達の前に滑り込んできた。
「夕飯ゲット」
「すげぇ……」
ティナの魔法に驚き、感銘の声が自然と漏れていた。
「ティナさんのスキルって魔導師?」
「魔法少女」
どうやら、あまりにもえげつない魔法を目の当たりにして耳がおかしくなったようだ。
もう一度聞き直してみる。
「なんですか?」
「魔法少女」
……。
聞き間違えではなかったらしい。