ローブの少女
王都『アレクトリデウス』
サルトゥス大陸最大の都市。
アレクトリデウスは、聖騎士団を有する武闘派国家である。
魔人族、獣人族に後れをとっていた人間族だが、アレクトリデウス初代国王ルーク・アレクトリデウスの指揮により発足された聖騎士団の躍進において、これらとの戦力は拮抗。
これにより、人間族、魔人族、獣人族が互いに睨みを利かせる三つ巴の状況へと移行したとされる。
始めて訪れる王都。
一言、でかい。
外壁は空高く、頑丈そうである。門も堅固な作りをしており、容易に攻め落とせないだろう。
王都となれば警備も厳重なようで、関所での審査が必要らしい。
この際に役に立つのが、冒険者ギルドのプレート。
このプレート一つでギルドが身分を証明してくれ、何処の街でも出入り自由になる。ギルド様様だ。
門を抜けると、そこは別世界のように活気に溢れていた。
色々な店が建ち並び、呼び込みの声が飛び交っている。
目移りしてしまいそうなのを抑え、現状とやるべきことを確認する。
所持金は、ゴブリン襲撃での特別報酬銀貨5枚。正直心許ない。
まずは、拠点となる安宿を探す。そして、ギルドで依頼の確認が最優先だろう。
それともう一つ、王都への道中にガチャのお知らせに届いたメッセージ。
『さぁ、旅立ちの時だ! 夢と希望の溢れる冒険の始まりだ!
しかーし! 一人だなんてダメダメ! ナンセンス!
冒険だよ? 仲間は必須でしょうよ。
と、いうことで仲間を作りましょう!
【報酬】パーティスキル<以心伝心>
』
なんかわからないけど神様のテンションにイラッとした。
でも、確かに一人よりも仲間がいた方が心強いのは間違いない。
報酬のスキルも気になるしね。
まぁ、簡単に仲間が出来る訳がないので、これは前向きに考えよう。
宿が高い。これは非常にまずい。
安宿でも食事付きで銅貨50枚。10日でお金がつきてしまう。
今日からでも依頼をこなさなければ破産してしまう。
店主に冒険者ギルドの場所を聞き、さっそく向かう。
冒険者ギルド本部ともあり、ウルスのギルドとは比べ物にならないほど豪華で大きい。
中に入ると、これまた屈強な冒険者達が大勢いる。
ここで仲間を探す? 無理無理。絶対相手にされないでしょ。
ひとまず仲間探しは諦めて依頼が張り出されてる掲示板に向かう。
時刻は昼過ぎ。
今からやるとすると、やはり慣れてる薬草採取だろうか。
だが、馴染みのない場所。効率は落ちてしまう。出来れば案内してくれる人がいればいいのだが……。
そう思い、半分諦め気味にギルド内を見回す。
カウンターで一息ついている同い年くらいの少女がいた。
短めに切り揃えられた蒼髪につばの広い帽子を被り、魔導師のようなローブを羽織っている女の子だ。
「あの……」
声をかけると彼女がチラッとこちらを見るが、すぐ視線を戻してしまう。
近くで見ると、とても可愛いらしい。しかし、警戒しているのか対応は冷たいものだった。
「何?」
「あ……えっと、その、薬草採取に行こうかと思うのですが、王都に来たばかりで案内してくれる人を探してまして……良かったらお願いできませんか?」
返事がもらえるとは思わずしどろもどろしてしまう。
……。
うん。返事がない。なんだろう、この心が抉られる感覚は。
痛む胸を抑えながら立ち去ろうとすると、少女は手に持っていたカップを優しく置き、
「わかった」
時差すごっ! その間やめて! 男の子の心を弄ばないで!
「え? 本当?」
彼女はゆっくり首肯する。
一瞬、ギルド内がざわついた気がする。
「ありがとう。俺はレオン。よろしくね」
「ティナ。行こう」
差し出した右手を無視してスタスタと歩き出してしまう。
俺は静かに右手を降ろし、やりきれない想いを胸に彼女の後を着いていく。
ギルドを出る際、冒険者達が御愁傷様とばかりに手を合わせていたのが気になる。