プロローグ
これは願いであり、脅迫であり、予言です。
はじめまして。○○県立□□中学二年、湊玲偉といいます。
この度、学校のグラウンドで焼身自殺しました。
理由は言うまでもないでしょう。いじめですよ。
持物を壊され、殴られ、クラスメイト全員の前で恥をかかされ、一昔前に流行った自殺の練習なんてことも幾度となく繰り返しました。夏にはカブトムシを食べさせられたな。あれは今でも夢に見る……。
強くたくましく、図太く鈍感でいらっしゃる方はこう思うことでしょう。
「なにも死ぬことはなかったのに。卒業まであと一年半我慢するなり、休むなりすればよかったのに」
――だからあなたたちはダメなんですよ。圧倒的に想像力が欠けています。
生徒にとっては学校・教室という、狭苦しく、ため息一つ、つくことが許されないような地獄こそが世界の全てなのです。
本当に、クラスメイトのK君、S君にはお世話になりましたよ。念のため、彼らのプライバシーは記載・同封させていただきますね。
両親を恨む気持ちはありません。ただ、僕の理解者たりえなかっただけのこと。
田舎でのびのび育った母は他人の醜い感情を爪の先ほども理解できない幸せ者。厳格な父は弱さを嫌い、認められない人間でした。
僕がこんな派手な手法を選んだ理由がわかりますか?
頭の足りない教師や封建的なお偉いさんたちが無能で、何一つ有効な対策をとれず、誰一人守れないからですよ。もはや、根本から変えないといけないんです。
解決策はただ一つ。「学校への監視カメラの設置」です。まずは、教室と廊下にパパッと置いちゃいましょう。
プライバシーの侵害? バカ言っちゃいけません。尊く、かけがえのないは人命。異論がありますか?
こういうことを言うと、容姿が残念な女生徒がキーキー奇声を上げることでしょう。目に浮かぶようです。そんな彼女たちにメッセージを。
「安心してください。誰も君たちのくだらない会話になんて興味ありませんから」
このカメラを閲覧できるのはいじめの疑いが発覚した場合のみ。それも、国のしかるべき機関立会いの下、しかるべき場所でのみ視聴できるものとする、なんてのはどうでしょうか? 何の問題がありますか?
ところで、いじめ加害者を世界にさらした僕は残酷でしょうか? でも、こうでもしないと彼らが明日も嬉々として登校し、この事件すら自らの武勇伝として語ることに疑いの余地はありません。自らの命と引き換えに、ささやかな断罪を望む僕はわがままでしょうか?
ここまで読んでくださったあなた。本当にありがとうございます。
僕の願いはシンプルなんです。声高に自らの正当性を主張する者だけを守る社会、こんなものはもう乗り捨てるべきだということ。反吐が出るようなゴミは排除すべきだということ。こんな肌が焼きただれるような思いをするのは一人で充分だということ。
言うまでもないことですが、これは全国の虐げられている生徒の苦しみから漏れ出した阿鼻叫喚です。ただの「点」、一過性の「現象」などではありません。
僕たちは、繰り返し、繰り返し、いくら泣き叫んでも頭を打ちつけられてきた。その傷口は、いつしか鋭いのこぎりへと変貌し、ギリギリと耳障りな音を立てながら己の身を削り、その血をしたたらせ、ついには絶叫とともに破断する。
もし、この声があなた方に届かず、響かず、何も変わらなかった場合、ドミノのように、加速度を増しながら、次なる犠牲者が命を断つ「死の連鎖」が続きます。このことをけっしてお忘れなきよう。
最後に。できることなら、もっと勉強したかった、いろんな国に行ってみたかった、親孝行も、したかった。でも、できません。人身御供が求められていて、僕はその呼びかけに応えてしまったから。
どうか、僕で終わりに。