発現5
それから3時間後漸く蓮は、平馬の要求するところまで炎を絞る事が出来た。彼がくわえたタバコに火をつけると旨そうに吸い込み言った。
「 上出来だ。今日はこの辺迄だな。メシ喰って帰ろう」
「 はい、平さん」
初めて蓮が平馬の名前を呼ぶ。平馬はやっと打ち解けてくれたかと、嬉しそうに笑い蓮の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。蓮としては子供扱いされた様で不本意だったが、今日の訓練を遣り通した充実感の方が勝って顔には出さない。
「ナイツの 食堂でいいか?」
「 食堂なんてあるんですか?」
「 千人は働いてるビルだからな。立派なのがある。味もなかなかいけるんだぜ。 おごってやるよ」
「 ありがとうございます」
蓮は素直に 好意に甘えることにする。 食堂は二階にあり500人は裕に入れる程広く、 和洋中とそろっていた。二人は 豆腐ハンバーグのセットを取ると会計を平馬が済ませ、窓際の席に着く。外はもう暗くなっていた。毎日こんなに遅くなるのなら、何か言い訳考えないといけないと思っていると。
「商社のメールボーイのバイト始めた事にすれば良い。ここは 表向き外資系商社ってことになっているから ちょうどいい」
平馬は 合いびき肉と豆腐のふわふわの塊を箸で ちぎりながら、提案してきた。
「 それがいいかもしれませんね」
蓮もハンバーグを口に運びながら答えた。和風の大根おろしソースが絶妙だ。平馬の評価はあながち間違ってない。付け合わせの鰻巻きに箸を付ける。これも旨い。
「外資系なら聞き覚えなくても大丈夫だろ」
「 土日はどうすんです。普通週休二日ですよね」
「 休日出勤て、ことにしとこ」
「 なんとか上手くやってみます」
ハンバーグをつつきながら 実務的な話しを二人は続けた。
「 定期もらって来い。また受付でやってくれる」
「平さん、送ってくれないんですか?」
「しょっちゅうだと人目に着くからな」
「 分かりました。電車で帰ります」
「 悪いな」
ここで蓮は、聞き忘れていた疑問をぶつけた。
「 なんであんなに早く 僕のことわかったんですか
?」
「探知専門の異能者が居るのさ。そいつが感知して急行したら消し炭になった人間を発見した。感知は継続中だったからお前が新たな異能者だと認定された。被害者は携帯の残骸から特定できた。後は死体を処理して、探知中の住所から緋村蓮という少年に行き着いた訳だ」
平馬は聞いてない事も含め答えてくれた。
「 そうだったんですか。 30分足らずで凄いですね」
「 それが生業だからな」
二人は豚汁を口に運びながら話を続ける
「 それにしても これだけの組織どうやって維持してるんですか?」
蓮は新たな疑問を口にする。
「異能者の力は金に為るのさ。あとは表向きの商社の売上とルシファーの財力ってとこだな。訓練が一通り終わったら、任務に就く事になる」
「 任務ですか」
「バデイと ツーマンセルのチームを組んでな。誰と組むかはわからない、ルシファーが決める」
「 なにさせられるんですか?」
不安気に蓮が尋ねると。
「 心配するな。後ろ暗いことではないさ。普通じゃ解決困難なトラブルの処理って感じかな」
平馬は安心させる様に豪快に笑った。完全に納得した訳ではないが、蓮も微笑み返す。こうして訓練初日は終わった。




