親子
疾風が止まったのは大使館だった。静かに大使館の向かいの電信柱の陰で、伏せている。FIATパンダの後部座席で千堂がやっぱりという感じで。
「疾風は大使館で止まったで。治外法権の厄介なとこや」
蓮は遼に向かい言う。
「トカゲさんの仕事はここまでです。後は僕と千堂で」
遼は心外だとばかりに。
「ここまできてそれは無いでしょう。最後迄、付き合わせて下さいよ」
ニヒルな笑いを浮かべて述べる。蓮と千堂は苦笑してうなずく。そうこうしてる内に着いた。疾風にリードを付けて窺う。監視カメラに塀の上の赤外線、警備は厳重そうだ。千堂が電線に、ワイヤーフックを引っ掛けながら囁く。
「ちと、待っててな」
千堂が電圧を下げていく。大使館は自家発電に切り替えた様だ。蓄えた電気を一気に放つ。過電圧でブレーカーが落ちる。その隙に塀を乗り越えた。
建物の外壁沿いに入口を探す。二人の警備の者が、二匹のドーベルマンを連れて巡回中だ。遼が、
「犬には犬だな。疾風襲え!」
疾風のリードを放す。ドーベルマンは唸りを上げる。二匹は噛み付くつもりで躍り掛かろうとした。しかし、疾風が唸るとたちまち、びくつく。さらに疾風のひと噛みで悲鳴を上げて逃げ出す。警備員は、千堂の十分手加減した雷撃で失神する。目立たない植え込みの陰に隠した。
5分ほどして裏口を見つけて、電子ロックを千堂が解除する。三人と一匹が入ると、電気が復旧した。
「パターンとしては地下だよね」
蓮が予想を述べる。二人は頷き、地下への階段を探りだす。蓮は感覚を研ぎ澄まし熱源を感じる。
「こっちです」
三人の人間とたき火の様な感じを察知して、当たりをつけた。廊下を慎重に進むと、不意に人型の式神が、 4体襲ってくる。蓮は袈裟懸けに斬りつけた。千堂は 1 2 3 4のコンビネーションで迎え撃つ。遼は銃を立て続けに撃ち込む。疾風は首筋に噛みついた。四体ともに後ずさる。蓮が爆龍波で一気に燃やす。道連れとばかりに炎に包まれながら向かってくる。遼がショックガンで一体ずつ撃ち倒す。
「予備の弾倉後 2つしかありません」
遼は片手で弾倉を外すと、素早く入れ替えた。
呪術師を含めて三人とも、銃を持っている可能性が高い。その為あらかじめ、三人はナイツ特製の防弾スーツを服の下に着込んだ状態だ。此は耐火耐冷防電の機能も、合わせ持つ優れ物である。それでいて厚さ2mmと薄い。ウェットスーツより遥かに動き易く出来ていた。
「 お出迎えあったちゅう事は気づかれとんな」
千堂の指摘に。
「 ああ」
「 相成りますね」
「ワン」
疾風迄、返事する。
「僕と千堂が先行するんで、バックアップお願いします」
「頼むで」
「OK」
短い会話でフォーメーションを確認して、階段の手前でスタンバイだ。千堂がわざとのんびり言う。
「 ほないこか」




