トカゲ3
練馬の街を遼のパンダが走り回る。11件目迄、空振りだった。12件目ウイークリーマンションを取り扱う不動産屋に写真を見せて訊く。
「保険の調査なんですが、この三人に見覚えは?」
「ああ、この痩せた人。ジョン・スミスさん、アメリカの方ですね」
気の弱そうな社員が答える。
「何かやったんですか?」
不安そうに遼に訪ねた。安心させる様に微笑んで言う。
「 そういうわけでは。詳しくは守秘義務で漏らせません」
不動産屋を出ると、スマホで地図見ながら疾風のリードを握る。10分後、十階建てのビルの前に着く。此処の5階の508号室が偽物ジョンの借りた部屋だ。隣の509号室に入る。ワンルームタイプであった。壁越しに隣室の様子を窺う。何かしらの呪文が聴こえる。更に詳しく調べる為に、壁に当てるタイプの盗聴器を仕掛ける。会話はなされてない。ここで本部に連絡を入れた。
「拠点らしき候補発見。確認します」
覗き穴に外側から、レンズの付いた筒状の器具を当てる。部屋の中が見えた。誰もいない。鍵穴にピンを差し込んで開けると、するりと部屋に入った。疾風も一緒だ。何処かに隠れ潜んでいないかと。
「疾風、警戒!」
遼が叫んだ瞬間何かが足に巻き付いた。すかさずショックガンを撃つ。衝撃波で緩められた隙間で引き抜く。疾風が噛みついた。朱い目をした三メートルの大蛇だ。
「 やっぱり居たか」
諦めた様な呟きとは逆に、銃を立て続けに撃ち込む。疾風に巻き付こうとした蛇が、苦悶する。
「狼牙天翔」
疾風に命じると、光の狼が牙を剥いて放たれた。大蛇を一飲みにして爆発する。後には木彫りの蛇が転がっていた。
「これが式神か。この祭壇も関係あるかな?」
部屋に設えた祭壇の中にラジカセが在り、エンドレスリピートで呪文が流れている。それを止めた。ここでは何も起こらない。
「ダミーか中継所ってとこか」
遼は気を取り直して、本部に報告する事にした。
同じ時間、蓮と千堂も戦っていた。部屋の通風口から3匹の大蛇と無数の蛇が侵入してきたのである。
「毒蛇やろか?」
「多分」
蓮と千堂は後にマリア達を庇いながら後退する。襲ってくる蛇は、片っ端から炎と雷撃が炭に変えた。しかし、いかんせん数が半端ない。大蛇もいる。一気に片付けようとすれば火事になる。手詰まりで対処療法しか出来ない。大蛇が飛び掛かって来ると身構えた瞬間、蛇達は紐や木彫りの大蛇に変わった。
「 どないしたんや」
千堂が呆気にとられて訊くが、蓮も訳がわからない。
「さあ」
それはトカゲがラジカセの呪文を止めたのと、同時だった。




