トカゲ2
疾風のリードを持って六本木の街を歩く。ライリーが売った偽造パスポートの名前はありふれたものだった。呪術を用いるならウイークリーマンションかアパート、絞り込みは困難である。マリアの母国の人間の名義ならば珍しいが、アメリカ人では数は半端なさそうだ。遼は疾風に向かい愚痴る。
「地道に潰してくのは骨だな」
「クゥーン」
同感だと言わんばかりに啼くと足を止める。車に着いたのだ。一人と一匹が乗るとすぐ発車した。行き先はドッグカフェである。行きつけの店で遼はカプチーノ、疾風はミルクを飲む。タブレットで極最近借りられた物件でアメリカ人を検索する。警察のシステムだがハッキングではない。ナイツの権限で利用可能なのだ。58件のヒットがある。とりあえず、扱った不動産会社のリストを当たる事にした。疾風を連れて自分の埼玉のマンションに帰る。
「 お帰りなさい。疾風 いらっしゃい」
妻の由依が出迎えた。由依は笑顔で遼にキスをする。遼と由依は結婚して二年目だが、未だにラブラブだ。疾風はそんな二人に素知らぬ顔である。毎度の事だからだ。由依は疾風の頭と顎を撫でて。
「は、や、て、ハウス!」
お座りを強制する。疾風は大人しく従う。足を拭く為だと理解しているからだ。疾風は由依が好きだ。毎回赤身のステーキを食べさせてくれるから。由依にして見れば、狼犬は大事な旦那様の身を守ってくれる相棒だ。粗略には扱えない。800gの赤身の極上肉位お安いものだ。それに疾風は漆黒の宝石の如く綺麗だ。耳や顎や肩、尻尾など完成された機能美がある。無駄吠えもしない。ペット可のマンションではあるが大型犬の多くない此処で、疾風について苦情を言われた事はなかった。居るのを忘れる程静かである。
「御飯出来てるわよ。秋刀魚の塩焼きと茄子の煮浸し、レンコンの挟み揚げ。疾風は何時ものね」
由依が弾む様に言う。遼は嬉しそうに、
「ご馳走だな美味そう。疾風も良かったな」
ブルゾンを脱ぎながら答えた。
夕食が済むと遼は疾風と入浴した。シャワーで犬用シャンプーを流すとブルブルと身体を振って水をきる。由依がタオルで拭く間に遼は、自分もシャンプーした。体を洗い湯から出ると、部屋着でタブレットを取り出す。今迄の襲撃ポイントと、ヒットした物件の位置関係を照らし合わせて、優先順を振ってゆく。明日は 練馬区を集中して当たる。そう決めて金庫の前に立つ。暗証番号を打ち込んで、一見モデルガンの様な銃を取り出す。ナイツ特製のショックガンだ。指向性の衝撃波を放つ。カートリッジは13発。護身用に支給された。こいつと疾風だけが頼りである。
「疾風頼りにしてるぞ」
「バウ」
あんたが頑張れとばかりの力強い返事だった。




