初仕事5
そこは都内のウイークリーマンションの一室であった。カーテンを閉め切った暗い部屋に、妖しい香りが充満している。中央の炉から、立ち上っているのだ。その匂いの中、男が三人詰めている。全員黒人だ。背の低い小肥りの男がシャーマンと呼ばれていた。
「又、失敗か。本気でやっているのか?」
背の高い痩せぎすの男が言う。それをとりなす様に筋肉質のがっしりした男が口を挟む。
「足がつかない方法じゃ仕方ない。狙撃なら俺がやるんだが」
「殺しの依頼、王女だけね。護衛も殺すなら料金前払いで3倍もらうよ。呪いで殺すと私の寿命縮めるね」
シャーマンは本当か嘘かそう言って炉に何やら植物を投げこむ。その匂いにむせながら、背の高い男は、
「 わかった。3倍出そう。新しい護衛は手強いからな」
そう言うと小切手に少なくない額を書き込んだ。
シャーマンの本名を二人は知らない。只、呪術師として有能だと理解している。それ以上の事は必要なかった。シャーマンの方も金さえもらえれば、一向に構わない。パスポートの名前は二人が用意した偽名である。シャーマンはマリアの王国の人間ではなく、アフリカ各地を流れ歩く国籍不明の闇の世界の住人だ。産まれた国はその頃内戦の真っ只中で、幼い内に両親をゲリラに殺された。そのままゲリラの少年兵として、停戦迄戦う。国際援助のNPOの更正プログラムが性に合わず逃げ出し、ジャングルをさ迷っている所を呪術師に拾われた。人を殺す事に抵抗は無いどころか、暗い喜びがある。5歳の幼児を殺すという酷さに加えて、苦労知らずの王女と聞いて喜び勇んで日本迄やって来た。ギャラが高いのも進んで引き受けた理由だ。
「これだけじゃあ足りないね。後2日で片付けるの、オプション料金よ」
まだ、がっつく気かとうんざりして、リーダーの男は言う。
「 それは成功報酬だ。マリア王女だけは確実に仕留めろ」
「O.K. ね。私仕事しくじった例無い。迅速確実に殺るね」
シャーマンは自信満々に言った。
一方、蓮達の泊まるホテルでは蓮が入国者リストから、三人を割り出している。マリアの入国前後に初来日した者で、パスポートの申請が極最近だったのが、あの三人だった。マリアの暗殺が目的である以上、パスポートは本物で偽名だと推測したのである。偽名だから来日記録も無く最近作っただろう、それが根拠だ。
「 討って出るか?」
千堂が訊く。カラスに遣られた怪我は、電気で身体を活性化して治っている。蓮は慎重に考えると。
「マリアの安全が第一だ。居場所も特定できて無いし」
蓮の言う事も、もっともだと千堂は納得した。ナイツの調査部に潜伏先の探索を任せて、蓮は須川夫妻に向かって頼む。
「可能ならマリアの側に居てやってくれませんか?両親と離れて命狙われるなんて心細いでしょうから」
「 そやな。その方が護衛に集中できて好都合や」
千堂も口添えする。須川氏が訊く。
「 いいのですか?私達が居たら足手まといでしょうに」
「かまへん。一人も三人もたいして変わらんしな」
「その通りです。敵は須川さん達の事も監視してます。危険性は変わりません」
二人とも須川夫妻が別行動してそこを襲われるより、マリアと共に守りきる方がベターだと繰り返した。




