初仕事 4
帰路、異変に気付いたのは千堂だった。
「車止めてや。何か空からくる」
運転手がリムジンを路肩に寄せて止める前に、何かがフロントガラスにぶつかる。いきなり視界を遮られて急ブレーキを踏む。車はスピンするが、みごとなドライビングテクニックで、側壁にぶつかる寸前で止まった。侍女達が悲鳴を上げる。
「 車に居てください。防弾で安全です」
蓮はそう言って車を出た。千堂も続く。
空が暗くなった。無数のカラスの群れが二人目掛けて襲ってくる。眼を守りながら、二人は炎と雷撃を放つ。しかし、カラスは二人のみならずリムジンにも体当たりを繰り返してくる。
「爆龍波」
「嵐撃舞」
二人の特技で黒い雲は、切り抜かれた様にパックリ穴が空く。けれどもすぐに塞がれる。黒い鳥の嵐に二人も傷を負うが、構わず炎と雷撃を放ち続けた。やがて群れも小さくなり、最後の一羽を蓮の炎が炭に変える。コロンと音がして、木彫りの鳥の燃え残りが落ちてきた。
「 またか」
「 今回はちと厄介やったな」
二人のシャツもジーンズも所々破れ血が滲んでいた。車に戻ると蓮と千堂の有り様に須川夫妻と侍女は息を飲んだ。マリアは心配そうに訊いた。
「蓮、円、痛い?」
「 心配いらへん。コンセントに手突っ込んどったら治る」
「便利な体質で羨ましいよ」
蓮は心の底から言う。そんなやり取りの一方で千堂は、監視者の有無を探知していた。それらしい反応はない。
「見張りはカラスの式神でやってんのかもしれへんな」
そう推測を口にする。それを承けて蓮は、
「犬や猫も有るかも知れないよ」
蓮なりの予想を述べる。
「 それもありうるな」
千堂も蓮の予想をすんなり受け入れた。どうやら監視の眼が逃れられない程巧妙だと言える様で、居場所は割れてしまう。それでも1ヵ所に留まるのは危険だと判断した。ホテルは出てきたものと異なるホテルに帰る。相変わらず一流のホテルのロイヤルスイートだ。セキュリティが確保し易いのが理由である。
先ず蓮がチェックし、その間千堂がマリアの側で警戒だ。安全が確認される。部屋に入るなり、マリアと須川夫妻がくつろぐ、緊張していた様だ。千堂は探知モードのまま、コンセントに金具を突っ込んで回復に努めた。蓮は、チェックのネルシャツに黒のジーパン、千堂は茶のウエスタンシャツに濃紺のジーパンに着替えている。蓮の傷は千堂の様にはいかないので、侍女に消毒してもらいナイツ製の医療テープを貼った。
「 大丈夫ですか」
須川氏が尋ねる。ナイツの医療テープなら2日で治る傷だ。そう伝えると、
「マリアの為にすいません」
頭を下げた。慌てて蓮は手を振る。
「 これが任務ですから」




