初仕事
「蓮、円、マリアはアイス食べたい」
褐色の肌の 5才の少女がただをこねる。ここは一流ホテルのロイヤルスイートだ。円と呼ばれて不機嫌になった千堂円は。
「我が儘言わんとけ。自分の置かれた状況ちゅうもんをなぁ。それから円言うな千堂と呼ばんかい」
まくし立てた。いきなり大声で言われてマリア・オロボスは愚図り、涙を浮かべて。
「蓮。円が虐めるの。お友達はファーストネームで呼ぶものよね」
緋村蓮に訴える。
「 そうですねマリア。アイスは冷蔵庫に有ります。今お持ちします」
警護対象者であるこの幼女に対して蓮は、丁寧な対応を心掛けていた。アイスにありついてマリアは機嫌を直しニコニコと笑っている。蓮の脳裏にはルシファーの説明が思い出されてた。
「なんやて!」
千堂が声を上げた。ルシファーはおかしそうに笑っている。しかし、真面目な顔と口調になり。
「 3日間。3日間守りきれば我々の勝ちです」
「 それは一体どういう事です?」
蓮の質問にルシファーが答える前に。
「 それより 警護対象者が幼稚園児のガキやて!子守りかいな」
千堂はこの世の終わりって表情だ。表面上無視してルシファーは説明する。
「 3日後彼女の父親は即位します。そうなれば危害が加えられる事もない。対象者マリア・オロボスの父、ジョン・オロボスはレアメタルの埋蔵量豊富なアフリカ某国の第一王子です。早い話、跡目争いですね。詳しいことは資料で」
「 なんやなんや。大学院留学で来日。学生結婚で須川有紗と結ばれ、翌年マリア誕生かいな」
千堂が引き取る。蓮もレポートを見ながら確認した。
「マリア二歳の時、帰国。2ヶ月前にアダム・オロボス国王崩御。腹違いの第二王子が居る訳ですか」
蓮は骨肉の争いの挙げ句、幼子の命を狙う愚行に怒りがわいた。それは千堂も同じ様で吐き捨てる。
「好かんな。マリアはどういう訳で来日したんや」
「 表向きは お忍びで祖父母の見舞いということです。実際には危険を感じた母親が両親に託したのが本当でしょう」
ルシファーは穏やかに言う。
「 依頼は マリアのおじいちゃんおばあちゃん?」
蓮が聞くと。
「日本政府です。ジョン王子は親日家で妃は日本人。レアメタルが欲しいのが本音ですよ」
辛辣な感じで珍しく、ルシファーが答える。
「大体分かりました。ホテルに向かいます」
「 了解や」
リュックと ギターケースを担ぐと恋華に開けてもらったドアをくぐる。
ホテルに着くと民間のSPと引き継ぎを済ませて、侍女にかしづかれたマリアに挨拶する。
「 僕は緋村蓮。蓮って呼んで下さい。今日から三日間君たちのボディーガードだよ。よろしくお願いします」
「わいは千堂円や。千堂って呼んでな。よろしゅう頼むわ」
「蓮に円ね。マリアよ。お友達ね」
マリアの反応に千堂は頭を抱えたが、蓮は逆らわず。
「マリア、お友達です。勝手に何処にも行かないで下さいね」
蓮は大人の都合で母親と離れ、身の危険にさらされている幼子にやさしくありたかった。
「二人はキラキラ星のお歌知ってる?一緒に唄おうよ」
マリアは自分の置かれた状況が分かっているのか分かってないのか無邪気なものだ。ただし蓮には全て承知の上で、わざと子供らしく振っているよな気がする。王家に生まれた者のたしなみなのだろうか?
「はい、知ってます。唄いましょうね」
蓮は油断なく気を配りつつ、マリアに合わせて口ずさんだ。




