コンビニ・エヴォリューション
未来の世界、右を見ても左を見てもスーパーは大発展を遂げていた!
しかし、そんな中、その周りに散在しているコンビニは、思った以上に昔と変わらなかった。
それでもしっかりとお客はくるのだから、やはりコンビニエンスというのは偉大なのだろう。
だが、バイト店員達の向上心は、そんな変わらない店の体系を、果たしてどのように感じているのか?
PPストアといえば、この世界ではとても有名なコンビニである。
コンビニと言われれば、これとあと二つがパッと出てくるほど、日本で知らない奴は非国民だと極端なことを言われてもおかしくないぐらいだ。
経営はそれ故にとても安定していた。でも、店員達の向上心は留まることを知らなかったのだ。
「先輩」
「なんだよ大木田」
「目の前のスーパー見てくださいよ」
「ああ、すごいな」
「ロボット売ってるんですよ? 何のために使うかわからないけど、ロボット売ってるんですよ!」
「そうだなあ……あ、いらっしゃいませー」
「比べてうちは、どうですか?」
「肉まんですねー、120円です。丁度いただきます。ありがとうございました」
「見てくださいよこれ。変わらぬ味、変わらぬ形の肉まんですよ!!」
「お前さあ、人が仕事してる時に後ろで騒ぐなよ」
大木田はやかんが沸騰したみたいに怒って暴れた。後ろにあった映画のDVDコーナーの棚が少し崩れた。
「先輩は!! 悔しくないんですか?!」
「俺、別に社員じゃないし」
「このままじゃ、客がみんなスーパーに取られちゃいますよ!」
「ちゃんと客も来てるよ。あ、いらっしゃいませー」
「…………」
「157円です……557円頂きます。おつりは400円丁度に……」
「あー嘆かわしい。どうしてコンビニは進歩しちゃいけないんだ……」
「ありがとうございましたー。とりあえずお前仕事しろ」
先輩が大木田の尻を蹴り飛ばした。ごもっともな話だった。
「でも先輩、このままじゃやる気出ませんよ〜!」
「店長に言いつけるぞ、コイツは……」
大木田は床に寝転がると、駄々っ子のように騒ぎ始めた。地面でしかも体を回転させている。
そんなに悔しいのだろうか、と先輩は面倒くさくなったので無視した。
「大体パワーパークってなんですか?! 力公園って意味わかりませんよ?!」
「静かにしろよ。お客がいるんだから」
「ヤダヤダヤダーーー!! なんか新しいこと出来なくちゃ嫌だーーー!!」
「お前電子レンジの中に詰めて破裂させるぞ」
「それは嫌です」
ムクッと大木田が起き上がった。頭に埃がついていたので、先輩は怒りをこめながら、彼の頭をバシバシ叩いた。
また泣きそうになっていじける大木田。イライラが募る先輩。そんな二人の間に、店長がヒョコッとやってきた。
「確かに飽きてくるよねえ」
「て、店長」
「大木田の気持ちわかるよ、うん。つまんないよね」
「店長、何言ってるんですか」
「やっぱりコンビニも進化しないといけないんだよ」
「そうですよね!!」
大木田の目が輝いた。先輩はこれぐらいのやる気出して仕事しろと殴りたくなった。
「でもさ、スーパーと同じことしてもつまらないじゃないか」
「うーんそうすると、どこで差別をつければ良いんでしょう?」
「あの仕事……あ、いらっしゃいませー」
二人が悩む。先輩は仕事をする。理不尽な構図だ。
「あ!! 俺いい事思いつきました!!」
「本当かね」
「はい、電子マネー2000円分ですね。少々お待ちください、手続きをいたしますので……」
大木田が何か紙に図を書く。店長はそれを見てうんうんと頷く。先輩は電子マネーの用紙をお客に渡す。
「君!! これは面白いよ!! 天才的だ!! よし、今から早速工事にとりかかろう」
「本当ですか、ありがとうございます!!」
「またのご利用をお待ちしており……ってお前等仕事しろよ!!」
「先輩。店じまいですよ」
「え?」
何がなんだかわからなくなった先輩は、呆然とニコニコする二人を眺めた。
「今から工事だ。これはきっと客が増えること間違いなしだぞ!! うわははははは!!」
「…………」
先輩は、あまりの怒りに、後ろのDVDコーナーの棚をぶん殴った。陳列されていた見本のDVDケースがポロポロと落ちて、店長の禿頭に直撃した。
数日後。あっという間にコンビニの改装が終わった。
新装開店とデカデカと告知されたコンビニは、町の住民の興味をそれなりに集めた。
そして早速、一人の客がコンビニの前に現れた。客は唖然としてそのコンビニを眺める。
「……なんで四階建てになってるんだ?」
PPコンビニエンスストアと、ドデカイ看板が設置された横には、エレベーターとエスカレータが設置されていた。
どうしてこんなデパートみたいになってるんだろうと疑問を持ちつつも、客は一階の扉を開けようとする。
「あれ?」
ガタッガタッ、という音がするだけで、開かなかった。よく見ると、四階からお入りくださいと書いてあった。
仕方ないなあと客は横に周った。とのあえずエレベーターを使うまでもないと思った客は、エスカレータまで行ってみるが、これもまたすごかった。
見上げても上の様子がさっぱりわからないぐらい、そのエスカレータは長大だった。おまけに昇りしかなかった。
昇りしかないことに疑問を持ちながらも、客は少し恐れを持ちつつも、足を運んだ。
「……どうして途中で降りられないんだよ」
混乱しながらも、客は出来るだけ静かにエスカレータに乗っていた。でも、途中で長すぎだと思ったので、歩いて飛ばした。
本当は、エスカレータを自力で上がるということはいけない行為であったが、もう既に常識はずれのコンビニだったので、彼の知ったことではなかった。
上まで必死の思いであがってみると、そこでは笑顔の中年男性、つまり店長がお待ちかねであった。
物凄い満足気というか、自信たっぷりといった店長は、早速その客を店まで案内した。
店の商品の並びを見てみれば、ほとんど内容は変わっていなかった。食品関係は勿論、飲料水、雑誌、通販、電子取引機械が並んでいるだけだ。
一体何が変わったのだろうか……と思いながら彼は弁当と雑誌と飲み物を抱えて、レジへと向かった。
しかし、見渡す限り、レジはどこにもなかった。
「お買い上げですか?」
「はい」
「ではこちらにどうぞ」
ノリノリの店長に紹介されていくと、そこには意味不明なものが設置されていた。
「すいません」
「はい。なんでございましょう」
「これ……なんですか?」
「見ての通りでございます」
「どうするんですか?」
「レジに通じてますので、どうぞ『お滑り』ください」
「……あの」
「どうぞ『お滑り』ください」
店長が笑顔で圧力をかけてくるので、客は仕方なくそれを使うことにした。他に帰還手段もないようなので、仕方なかった。
男は滑るために、その場に足を前に広げて座り込んだ。そして手で自分の体を押して、そのウォータースライダーから滑った。
シューーーーーッ!! と水飛沫をあげながら、男は滑っていった。
彼の履いているGパンはびしょぬれになり、シャツはグショグショに濡れて肌に張り付き、生々しい肌の色を映し出した。
一番被害甚大なのは靴下。子どもの頃、こういう濡れた靴下のまま遊んだ記憶が彼にはあったが、もう楽しめる年ではない。
さらに勢いよくスパーーーーッと滑っていると、途中横からコースに向かって滝が落ちていた。それを客は見事にザバーーッと被った。
それがニ・三回続いたところで、ようやくウォータースライダーのゴールが見えた。最後には、客を受け止めるためのプールがちゃんと待ち構えていた。
ザブーーーーーン!!!
「お、先輩。客が来ましたよ」
「そうだな」
「第一号ですよ。興奮しますね!!」
「弁当がバラバラだな」
プールには、弁当の中身が散乱していた。雑誌も浮かんでいた。お客も浮かんでいた。
仕方ないので、先輩は客のところまでいって、大丈夫ですかと声をかけた。
それで我に返った客は、死んだような目のまま、散らばった弁当を出来る限りかき集め、落ちた衝撃で手から落ちた飲み物と雑誌も拾い集めた。
「いらっしゃいませーーーー!!!」
大木田は、物凄い元気に接客挨拶した。
「3点ですね。お会計いたします」
客は、ビショビショのまま大木田のことを眺めていた。
「お弁当温めますか?」
非の打ち所の無い笑顔で、とても明るく弁当のことを聞いてくる彼に、お客は暗い声で答えた。
「その前に商品を取り替えてください」
「はい。店長ーーー! さっきのお客様の商品、スライダーに流してくださーーーい!」
「やっぱりいいや。飲み物だけでお願い」
お客は、諦めてそれを断った。
「それと……」
「はい。電子マネーをお買い上げですか?」
「いやさ。この携帯電話弁償して」
そこには、画面がブツッと切れた携帯電話が、カウンターに差し出されていた。水没したのである。
それを見た大木田は、しまった、こんな時のことを考えてなかったーという顔をして、先輩を見た。
先輩は、そんな彼に対して、目が笑ってない笑顔のアイコンタクトで返した。「知るか!」と簡潔に。
「では、我々が責任を持ってこちらは弁償させていただきます……とほほ」
大木田が、とてもしょんぼりとしながら客に謝罪をした。自分が弁償する羽目になりそうなせいか、彼は涙を流していた。
だが、そんな彼に対して、客はさらに容赦なく注文をつけてきた。
「もう一ついいかな」
「はい……なんでしょう」
涙ぐむ大木田に対して、客は、体をガクガクブルブルと震わせながら近づいてきた。
何とも言い難い威圧感に大木田も震えるが、そんな彼をさらに脅すように、、客は詰め寄るようにして顔を近づけて、こう言った。
「い、今の……もう一回やらせてくれ!!」
「えーーーーっ?!」
先輩は驚いて、プールの中へとずっこけた。彼のポケットに入っていた携帯電話も、水没した。
二週間後。コンビニはあっという間に潰れた。
「なんだってんだよ、こんチクショォォォォォッ!!」
先輩はキレて、自分が働いていたはずの店の壁に、スプレーで畜生といくつもいくつも落書きをした。
数分で警察に捕まった。
ハイパーなスーパーがやたら好評で、うれしくなって書いてしまった作品。そしたらとんでもない駄作になってしまいました。先輩に愛の手を。




